鎮魂の時 4
リタはあたしの側を離れようとはしなかった。前に彼女が近所の悪ガキに、虐められている時に、一寸庇ってから、なつかれていたのだけれど、今は不安なんだろうなと思う。駄目な母親だったとしても、大事な家族には違いないのだから。このくらいの年頃の子供にとっては、何よりも必要な者なのかも知れない。
あたしは、リタの黒髪に縁取られた幼い顔を見詰めながら、此れから生きて行く事すら怪しい将来を思う。少なくとも、この村には親を失った子供を、育てる余力は無いだろう。勿論あたしにも、そんな能力は無い。
何しろまだ、あたしも父ちゃんに保護されている身なのだから。たぶんここの教会にもそんな余裕は無いだろう。何か考えてあげたいけれど、一人の子供を大人に育て上げると言う事は大変なのだ。
あたしはまだ子供なのだ。中の人は二十二年分の経験はしているけれど、其れはたいした物では無い。
あたしの言うことで、大人を動かすことは出来ない。何故が今回の水害に対して、土嚢袋を使った工事の提案を、伯爵夫人が聴いてくれたのが、例外だと思う。たぶん緊急避難的な判断だったのだろう。
ただあたしにも解ることは、このままほおっておくと、小さな死体が動物の餌になるだけだろう。まだ、奴隷にでも慣れれば生きてもいられるだろうけれど、この世界には酷く理不尽なことが一杯有るのだ。まあ、前世の日本にも全くなかったわけでも無いしね。時々、餓死してしまったなんて言うニュースも見たことがあるから。此方の世界のが酷いのは仕方が無いかな。
王様や貴族が幅を利かせている世界に、人権野生活の保証なんて物があるわけが無いのだ。ゲームで描かれているのは、裕福な特権階級だけの世界の物語だったから、綺麗で夢を見ることが出来たけれど、描かれない庶民の生活なんてそんなもんよね。
其れなのに、戦争なんて良くやるよねと思う。何しろ、領都ですら庶民のほとんどが読み書きが出来ないのだから。良いように貴族にされているのだろう。
「ねえ。リコ姉さん、母ちゃんが死んじゃったのは、あたしが良い子じゃ無かったから?」
「そんなこと無いよ。あんたのせいじゃない」
あたしはどうしてやったら良いか、全く解らなくて、小チャな彼女を抱きしめた。たぶん身を清めていないのだろう、かなり汗臭かった。この村の大人は、彼女の面倒を見てはくれていないみたいだった。
其れは仕方が無いのかも知れない。今は自分たちが生き残ることで精一杯なのだろう。其れを責める言葉を、あたしは知らない。
少し悲しい展開になってしまった。
読んでくれてありがとう。




