書類との格闘 19
庶民にとっては、実際そんなもんだ。確かに成り行きで、殺し合いに駆り立てられることもある。其れも税の範疇だと持っている。其れで、死んだら同相もない。元も子もないのだけれども、如何したって権力者には適わない。そうなるように誘導もされているしね。
判っていても、権力者の我儘に振り回される。生活が立ち行かないから、仕方なく命令を利かなきゃ成らない。そう言う構造があるから、国が成り立っているわけで。下手に知恵の無い奴が、権力を掌握した時が最悪なことに成る。
今の処、この邦の中では奥様が、大きな権力を握っている。これが間違って、彼の伯爵に、実権が移ったときが、怖いことに成るかも知れない。悪役令嬢マリアが騒動を起こさなければ、帝国が進軍してこないかも知れない。来たとしても、国の騎士団の援軍が期待できるかも知れないから。そう簡単に、奥様が殺されるようなことには成らないと思うしね。
「これからは無理でも、明日からは何とか手伝って欲しいかな。出来るだけ手早く、目の前にある書類をやっつけたいし。何より、目の前にある橋に対する、破壊工作の問題もあるし。オマケに、先代のマッキントッシュ卿の死因なんかにも興味があるからね。こんな処で、手間取っても要られないんだ」
「あんたも其れを疑っているんだ。橋の件だけでも無いんだね。リントン様に、姫様呼び為れているのは、あんたの方なんだね。たんなるメイドの癖に、色々と優秀なんだ。あんたの親父さんは、彼の裏切り者何だろう……。誘拐されたマリア様を助けたから、今のあんたがあるのは判るけれど。其れだけでも無さそうだね。そう言えば、ディックの奴にも気に入られて要るみたいだから。あんたはどんな育てられ方をしていたんだい」
「毎日弓撃っていた。其れと、誰にも殺されないように、鍛錬を欠かさなかったかな。父ちゃんがこの邦で、最強の騎士だった事は、この間知らされたかな」
レイナさんが、あたしの顔をまじまじと見詰めてくる。何時も笑っているような、目元が今は少しだけ真剣な物に変わったような気がした。
あたしは、思わず苦笑を浮かべてしまった。かなりスパルタに育てられても要るし、何より悪役令嬢マリアのハイスペック。更に、前世の経験もあるから、結構チートかも知れない。それでも、あくまでもぶっ飛んでることもない。人間の範疇に収まっていると思う。
たぶん、父ちゃんがあたしに施してくれた、教育はマリア・ド・デニム伯爵令嬢と、入れ替わっても、困らない程度の教養と、それ以上に誰にも殺されないようにするためのものだ。
父ちゃんは、母ちゃんを失ったことが悲しくて、復讐を考えていた時期がある。その為に、あたしをマリア・ド・デニム伯爵令嬢にする計画を建てていた。
だから、さくらいろのきみに・・・のオープニングで、誘拐されたマリアが乗る馬車を襲撃して、ナーラダのリコに殺させるようなことをしたんだ。呪われた双子を送りつけることで、母ちゃんが苦しみながら、死ぬような遠因を作った。デニム家にたいして復讐をしようとしていたんだ。
その為の教育こそが、今のあたしの基盤に成っている。ただ、あたしが母ちゃんが亡くなったときに、前世に記憶を取り戻してしまったから。父ちゃんの復讐は、成り立たなくなった。何故かというと、あたしは人殺しにも成りたくなかったし。今後の展開を予測できたから、幼児のかわいらしさをフルに使って、父ちゃんを魅了した。ただ、残念なことに、あたしの魅力が効き過ぎちゃってね。
激甘父ちゃんに成っちゃったのよね。お陰で、何人の叔父さんの腕がひん曲がったか、その度にどれだけ謝りに行ったか。可愛い女は辛いわ。




