書類との格闘 17
「それなら、協力してくれないかしら。正直、しんどくて」
あたしとしては、期待してしまう。あたしと一緒に来た人の中で、そういった事が出来るのは、レイを覗けは侍女のジェシカ・ハウスマンさんくらいしか居ないから。いわゆるスパイをしているようなら、もしかしてあたしより使えるんじゃないかと思ったのよね。正直、彼の書類の山は、気持ち的に負けてしまいそうに成る。
ジェシカ・ハウスマンさんは、そういった事をするために来てくれている人では無いし。何より、あたしの命令を利く立場にいないから。お願いするしか無いんだけれど、断られてしまったからね。
まあ、彼女の立場に立って考えれば、ただの平民の娘の頼みを聞くことも無いから、その辺りは仕方が無いことかも知れない。だからと言って、あたしが奥様の実子だなんて言うわけにも行かないし。
この辺りで信じられている、双子は不幸をもたらすなんて迷信には困った物だと思う。そのお陰で、こんなに面倒なことに成っているのだし。判らないでも無いのだけれど、何しろこの世界の医療では出産は、前世の世界と違って、命がけのレベルが違う。其れこそとんでもない、覚悟の居ることだったから。
ましてや、双子を妊ることは大変なことだったろう。奥様の覚悟に、尊敬を感じるのだけれど。だからと言って、本当に娘に戻りたいとも思わない。その辺り、一寸複雑なのよ。
これが本物のマリアの頼みなら、侍女であるジェシカ・ハウスマンさんも聞いてくれるだろうけれど。所詮は平民、御貴族様に命じることも出来ないしね。
「クリスなら、今の処仕事は出来ないから。貴女の手伝いくらいは出来るけれど。この子は、元貴族だから、そういった事に長けているしね。ただ、彼女が御屋敷に入り込むのには、少しばかり工夫が必要よ」
と、レイナさんが言ってくれる。
あたしとしては、取っても助かる。正直しんどくて、投げ出してしまいそうに成っていたんだ。意地もあるから、投げ出すことも出来ないし。レイを向わせたことを後悔するように成っていたから。あれだけの量の書類を読み込むだけでも、しんどくて仕方が無かった。
「じゃあ……今からでも、来て手伝って」
あたしの声が一オクターブ跳ね上がった。正直大変嬉しい。
あたしの提案に、二人の表情が何とも言えない子を見る物に成った。
「準備も要るし。マッキントッシュ邸に入るにも、其れなりに手続きが要る物よ。簡単に来て、何て言われて。ハイそうですかっ手分けにもいかないわ」
レイナさんが、当たり前のようにそんなことを言ってきた。あたしだって、むちゃな事を言っている自覚はある。一寸、一緒に来て貰って。あたしが割り振られている、部屋に来てくれれば、どうとでも成ると思うのだけれど。何か、スパイにも事情があるのだろうか。一応、クレナさんが月の物出しんどいのは判っているつもりだから。その辺りについては、気を遣うつもりだし。
「処で、貴女どうやって帰るつもりなのかしら」
「そんなこと簡単よ。あそこの警備体制って、ザルだし。城壁を作っているから、足場も掛かっているし。結構杜撰なところも有ったりするから楽勝だと思うわ」
二人とも、あたしの言葉に呆れ返っている表情を作った。スパイならそう言う事なんか、簡単にできるイメージがあるじゃ無い。例えば、どっかのイケメンスパイみたいに。まして、この世界に防犯カメラも、赤外線警報器なんか無いのだから。




