鎮魂の時 3
この国の葬儀は、教会の司祭様の祈りの言葉を聴いて、皆で亡くなった者のことを送り出すのが基本である。そうすることで、送られる者は心安らかに神の元へ行く事が、出来ると信じられている。そして、生きている者は明日を生きて行く事が出来る。
あたしは、手前世の記憶を持っている手前、死んだ後の先がまだあると信じてはいるけれど、この世界で出会う事はないだろうと思っている。神の存在は信じてはいない。
前世でも、神はいないと思っていたし。何かの間違いで、こんな事になっただけで、もしかするとこの前世の記憶にしたって、単なる気の迷いかも知れないのだから。
村の衆が一人一掬いづつスコップの土を、棺の上に落として行く。其れは順番にすべての墓穴に対して行われている。其れは誰に対しても、平等に順番が回ってくる。
やがて、あたしの所にもスコップが回ってきた。あたしは小さく頷くと、徐に側の墓穴に土を入れて行く。側にいた、リタには玩具みたいに小さなスコップが渡される。
あたしは、リタの肩に手を遣って、頷いて見せた。此れで彼女は、自分の母親とお別れするのである。
あたしは、碌でなしのニックとのお別れとなる。彼には、色々と悪い事を教わった。まるで盗賊紛いの技術が主ではあったけれど。たぶん此れからあたしが生きて行く上で、もしかすると最も必要な技術かも知れない。
案外、ゲーム上の悪役令嬢の持っていたスキルは、ニックの持っていた物かも知れない。王都の闇の中で、暗躍できたのは彼の技術が遭ったからかも知れなかった。そして、今のあたしにも必要な技術かも知れない。教わったことの半分も出来てはいないけれど、此れから身につけて行こうと思う。
「ニック。ありがとね」
あたしはそんなことを呟きながら、スコップで奴の棺の上に土を落とす。なんか又涙が止まらなくなった。
悪いことを教えてくれる、近所のお兄ちゃんは結構あたしの中で比重が大きかったみたい。奴のことだから、自分だけを守ろうとしていれば、案外ここに、にやにやしながら、立っていたと思う。でも、奴はキャサリンとリタを助けようとしたらしい。だから、逃げ遅れた。
似合わない事をしたもんだとは、思うけれども神様がいるのなら、少しは優遇してくれるようになったのでは無いだろうか。そうだと良いと、あたしは思う。案外、現代日本に転生していたりして。
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