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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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書類との格闘 7

「紅茶は領都デイロウの物です。そして、この焼き菓子はマッキントッシュ家の料理人の作です。此方に関しては、既に毒味は済んでおりますので、安心して頂けます」


 ランプに油を補充すると、今回持ってきた品について、説明をしながら、あたしの顔をそれとなく観察為ているのが解る。何か言いたいことでもあるのか、その眉間に皺が寄っている。


「間違いなく此所には誰も居ないから、気にしないで良いと思うわ」

「其れでは遠慮無く。貴女、早く寝なさい。昨夜から殆ど寝ていないのでしょう。こんな処で、寝込まれたら私たちが迷惑なのよ」


 サリーさんが、何時もの調子で咎めてくれる。メイド長サンドラさんとは違って、思いやりを感じる言葉だ。それでも、少なくとも手元にある書類だけでも、目を通しておかなければいけない。勿論、この書類には僅かばかりの齟齬と、領民に対する増税方針が読み取れるだけで、その先に有る物は見えてきていない。

 流石に、マッキントッシュ卿だって馬鹿じゃないから、簡単に手の内を見透かせる物でも無いだろう。あたしに見せて良い書類の類いしか、用意はされていないと思う。こんな時、リントンさんの影の人達との繋ぎを確保しておかなかったことが悔やまれる。

 何より、あたし一人で出来ることなんか、たかが知れている。あたしとしては、早いところマッキントッシュ邸での仕事を終えて、ナーラダ村の様子を見に行きたい。あたしに取っては、あそこが一番の故郷だからね。


「あともう少し粘りたいと思う。この書類だけでは、何とも言えないのだけれど。持ってきてくれた物だけでも、可笑しな点があったから。この分だと、マッキントッシュ卿の仕事に、疑問があまりにも有り過ぎる。帳簿は二重帳簿に成っている上に。これだけでも、使い道の可笑しな物すら有るからね。それでも、決定的な証拠とは言えないのよね」

「それでも、あんたが身体を壊してまで、こんな仕事を為なければならない理由は無いはずです。リコは、未だ十三歳の子供なんですよ。私が手伝えれば良かったのだけれど。私では足を引っ張るしか出来ないから、御免ね」


 サリーさんは心配で仕方ない様子で、あたしに対して、手を止めて休憩するように、促してくれている。あたしに言わせれば、十歳に成るか成らないかの子供が、一日の大半を仕事させられている、現実を知っている。その事を考えるなら、このくらいはどうと言う事でもない。何より、早くこの面白くもない、書類仕事を終わらせたいと思っている。

 何はともあれ、マッキントッシュ卿がこの領主代行に成ってからの、お金の動きだけでも把握してしまわなければ。少なくとも、あたしの大事な村の衆が困った事に成るかも知れないからね。

 サリーさんの圧が凄い。睨み付けてくる視線の強さは、メイド長サンドラさんの比では無い気がする。あたしの身体のこと心配してくれているのは判る。そう言えば、昼食もおやつも取らずに、ひたすら書類を飲みふけっていたんだな。気が付けは、お腹が空いた。

 何よりも、机の上に置かれた、書類を読んでしまいたかったんだ。このあとの方が、面倒なことに成る予感がするから。なるべく早く、マッキントッシュ卿の事情を知らなければならない。この御屋敷の周りに作られようとしている、城壁が気になるんだ。これって、領民との心の距離が離れてきている証拠なんじゃ無いかなって思う。

 若しかすると、マッキントッシュ卿は領民を恐れている。以前のお爺ちゃん領主様は、街の衆が守ってくれるって考えていたらしいけれど。彼にとっては、領民は警戒するべき、存在になってしまっている。だから、領民との間に城壁を作っている。これはこれでヤバくない。





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