書類との格闘 2
何時、この橋の柱が傷つけられたのか。そして、この叔父さんが何を為ていたのか。それに、何でこんなに大変な時期に、態々御屋敷の周りに、城壁を築こうとしているのか。直接質問しても、本当のことは話してくれないだろう。たとえ話してくれたとしても、その事を鵜呑みには出来ないだろうし。
ダメ元で聞いても良いかもしれないな。何より、今のあたしにはじっくり、時間を掛けて、この叔父さんを説得している時間的余裕がない。
レイには、既にナーラダ村に向かうように話してあるけれど。出来れば、あの人達に挨拶くらいはしておきたい。あとで、村には顔を出すことになるだろうけれど。出発する時間まで、あと1時間程度しかない。
マッキントッシュ卿と並んで、橋の下を眺めていたんでは、彼の家族の見送りに間に合わないから。こうして、話を進めることにしたんだ。
どのみち、見送りに向かう序でに、日の下で橋の様子も確認できるし。それで良いと思っている。
「今回の件も含めて、色々と問題がありそうですね。子爵家の内政に関して、口出す物ではありませんが。それでも、これは看過できないことだと思っております。ですので、そうね。……運んできた、公金をお渡しするに当たって、私に最近の出来事や、お金の流れなどを確認させてください」
因みに、これは奥様から言われていたことだ。公金を渡すに当たって、その使途や目的についても、調べ上げておくようにとのことだった。本来は、あたしがナーラダ村に行っている間に、レイにその仕事を割り振るつもりだったのよね。だから彼には文官の肩書きを、付けて貰った。あれで、王族としての教育を受けているから、結構万能だったりするから。
少なくとも、悪役令嬢マリアと共に、王都で暗躍していたときの、描かれ方はスーパー執事だったしね。腕も立って、書類を読み解くことが出来る、悪役令嬢マリアを補佐する男だ。だから、彼を失ってからの彼女は、全ての行動がおかしくなった。全力で、破滅へ向かっているように見えた。ゲーム中は、ライターが、変わったのかなとしか、思っていなかったんだよね。
マッキントッシュ卿の表情は、苦虫をかみつぶしたような物に成った。色々と知られてはいけない隠し事があるのだろう。こうして、堂々と調査することが出来るのは、奥様が公金という餌を持ってこさせたことが大きい。誰だって、大きなお金を援助するに当たって、可笑しな事に使われたくは無いからね。
何しろ、領主の立場は結構強い。此所は直轄領ではないから、無条件で領地の運営に関わる書類を精査なんかできない。其れは、いわば越権行為になるから。デニム家は邦の支配者といえど、領の政に口を出すことが出来ないんだ。
領主としての、最低限の義務を果たしていれば、例えデニム伯爵家といえど、政に口を挟むことは出来ない。しかし、今回は例外になる。何より、橋の件もそうだけど。公金による援助という話しだからだ。
あたしが、彼の家族を村に送り込む条件がこれだった。奥様は、あたしが村で色々とやらかしていたことを知っていた。お金の流れを見て、これがどう言う意味を持っているか。村長に厳しく仕込まれていることも知っていたんだよね。情報ソースは、恐らく父ちゃんだって事は、何となく判っている。
どうせ、奥様に自慢話でもしたんだろう。今のあの人に言わせれば、あたしは将軍だそうだから。




