やっぱり墓穴
持ち物のうち、一目で武器とわかる物は、取り上げられている。あたしのお気にの弓と小刀は取り上げられたけど。でも服の中に縫い込んである、鍵開けの道具は見つけられなかった。もっとも、12歳の子供が鍵開けの技術を持っているなんて、思いもしないのだろう。
扉には外から鍵がかけられている上に、見張りの兵士が立っているのは明らかで、どう頑張ってもあたしでは廊下に出ることは出来ないだろう。扉に耳をつけると、ぶつぶつと不満をつぶやいている、兵士の声が聞こえる。彼の上司のジャスミンていう名前らしい。
あれ、ジャスミンって、あたしを取り調べた文官じゃ無かったっけ。あの人、文官じゃ無かったんだ。もしかして、ここの兵隊さんってあんまりたいしたことないのかな。
あたし袖口に縫い込んでおいた、鍵開けの道具を取り出し。おもむろに鍵開け作業を開始する。この技術は、ニックに教えてもらった物で、あんまり使うことのない技術とは思ったけれど、教わっておいて良かったかも知れない。
窓の鍵は単純な物で、あたしでも簡単に開けることが出来た。おそらくニックは既に窓の鍵は開けてしまっているだろう。逃げ出していなければ良いのだけれど。あいつが逃げ出していると、警戒されると良いことなさそうだしね。
木戸を開けると、隣の窓からニックが顔を出して、こちらを伺っていた。彼の顔がほんのり赤くなっている。もしかして酒を飲んでいる。
「何やってるの?」
「下の酒場の厨房から、ちょっとばかし頂いてきたんだ」
ワインの瓶をラッパ飲みしている。ラベルを見る限り、貴族で無けりゃ飲むことが出来ない代物である。
「で、父ちゃんはなんて言ってる?」
ニックはぜったい黙って、軟禁状態でいるようなタイプの人間では無い。散歩に出歩いてるはずなのだ。
「しばらく、マリア・ド・デニム伯爵令嬢の面倒を見て遣れってさ。単なる誘拐事件でなさそうなんだって」
結局あたしは、デニム伯爵家の人間と関わらなければ慣れなくなった。やっぱり墓穴を掘ったのかな。
所詮平民には、貴族の命令には逆らえないって事かな。まぁ、それなりに金にはなるだろうし、悪い話でも無いか。
元々、ゲームでは入れ替わっているし。それに比べればまだましかも知れない。あたしは腹をくくることにする。此れって、ゲームの強制力なのかも知れない。