書類との格闘
ガセボの中で、侍女のジェシカ・ハウスマンさんを背にしながら、あたしは気の弱そうな叔父さんと、楽しくもない会話を続けている。彼の家族を送り込むことに、難色を示しているマッキントッシュ卿を相手に、此方の意向を理解して貰うために、色々と言葉のチョイスを考えながら、説得を試みる。
実際は、この叔父さんは反対することなんか出来ないのだけれど。奥様の名前入りの承諾書があるからね。それでも、この辺りの領主様には違いないのだから。納得して、貰っておいた方が良いだろう。
本来なら、こういった事よりも。問題に為なければならい事が、有り過ぎやしないかって思うのだけど。その辺りについて、後回しにしたいのか、話題にしたくないのか。どっちだろう。
あたし達が巻き込まれることもなく。未だに橋は健在だから、軽微な咎で済むとは思うけれど。其れだって、彼にとっては痛いことには違いないからね。
この叔父さんには、身内の暗殺疑惑だって有る。前領主の気の良い爺さんに対する疑惑だけでも、大問題だと思うのね。これは其れほど騒ぎになっていないけれど。この貴族達の中で、そう言った事件は、数こそ少ないけれど。全くない話しでもないから。驚くようなことでもない。
それでも、こういった事が表沙汰になれば、問題にもなるし。罪にだって問われる事もある。
この人は、本当に自分の父親を殺したのだろうか。その辺りも気になるし、橋の件についても、誰がなんのために、橋の柱に鋸を入れさせたのか。絶対に橋が落ちるとは限らないのに。ああいった仕掛けをする意味が、本当にあるのかどうか。
実際、マッキントッシュ家はこれだけでも、かなりの失点になる。立場だって悪くなるだろう。もしも、マリア・ド・デニム伯爵令嬢が馬車と一緒に、堀に落ちたなら。其れを聞いたなら、奥様が如何するか、一寸気になることかも知れない。
残念なことに、あたしは奥様がどう思うかなんて、奥様のことを知らないから、想像することも出来ない。あとで、奥様との付き合いが長い、ベテランメイドのサリーさんに聞いてみようと思う。
領民の移住は、大した事でもないのだけれど。それでも税収に関係してくるけれど、領主のレベルの問題でも無い。どちらかと言えば、村長や役人レベルのことだ。
それでも拘るのは、若しかすると他に何かあるのかも知れない。有るとすると、其れはなんなんだろう。あたしが馬鹿に為れているだけかも知れない。その方が面倒がなくて良いな。
そんなことより、橋のことについて話題を変えよう。そうしないと、何時まで経っても、話し合いが終わらない。何より、橋の柱を傷つける事で、得する人間が居るのは確かなんだから。あるいは、この叔父さんを陥れることが目的なのか。真逆ね。
この叔父さんは、この重要な拠点の責任者としては、かなり不安を感じる。何しろこの領都ベレタは、昔に戦争で奪われた、港へ向かう道と、この先にある砦へと向かう道の分岐点で在り。此所の戦力は、マルーン邦を守る後方の要なのだから。
此所の領主が裏切れば、守りの要になっている砦が、完全に孤立してしまう。乙女ゲームさくらいろのきみに・・・のスチルが完成するかも知れないんだ。




