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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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マリア様の言う通り 3

 此方も礼を失しているなどと、つまらん批判を浴びない程度に礼を取る。中々難しい塩梅に、困ってしまう。

 自慢の大きな窓ガラスの向こうには、これまた自慢の庭園が広がる。遠くの方から、兵隊の日課となっている鍛錬が始まっているのか、掛け声が聞こえてくる。

 部屋の用意されているテーブルには、洗い立てのテーブルクロスが、被せられており。中央には、小さな陶器製の花瓶に、何処からか詰まれてきた、花が一輪刺されている。これだけでも、この子娘に対して、心を砕いていることが判るだろう。

 この朝食には、余人を置かずにと言っておいて良かった。マリア・ド・デニム伯爵令嬢付の侍女は、可愛らしい顔をは裏腹に、きつい視線は居心地が悪くなる。一緒に朝食をするのには、少々しんどい相手だ。

 あそこの女達は、何でこう付き合いづらい感じがするのだろう。こざかしい知恵を回して、此方の失点を見付けようとする。実際この目の前に立っている、小娘も彼の女に良く似ている。


「よく眠れなかったようですね。矢張り枕が変わるといけませんか」

「いえ、そう言う訳ではありませんわ。客室について大変満足しております。人の多さに当てられたのかも知れませんわ」


 卿の言葉に対して、小娘が何処かで聞いた様な言葉を返してくる。後ろで脚本でも書いている者が居るのかも知れない。彼の侍女かも知れないな。あとで名前を聞いておこう。

 我が家の従僕が、小娘の椅子を引いて、座ることを促す。彼女が座らなければ、我々は席に着くことも適わない。彼女の爵位は現段階で、子爵となっており。其れだけでも、腹の立つことに目上となっている。ましてや、主筋には違いないのが辛いところである。

 テーブルは六人掛けの物を用意させているから、ゆったりと座れるようになっている。窓を背にした席に、マリア・ド・デニム伯爵令嬢が座り。左隣に、私が座るようにした。私の真向かいには、我妻エリスが腰を下ろす。

 私の右隣には、長女のエイプリル十五歳が座る。妻の隣は、シェリー十歳だ。残念ながら、正妻の子で男の子は生まれなかった。平民の娘に産ませた男子はいるが、それを今の妻に言い出せないでいる。

 私の側に立つ、執事が私の顔を覗き込む。その表情には、食事の用意をはじけても良いかと書いてある気がした。何時ものように、彼に承諾の合図を送ると、彼は言葉空かないに、給仕に食事の始めを告げる。


「お姉ちゃんは、お馬にも乗れるって事だけど。乗っているお馬は賢いのですか」


 これまでの会話の続きのように、妻の横で座っているシェリーが興味津々という表情をさせて、マリア様に聞いている。この末の娘は、良く父上に連れられて、街の中を馬に乗せられていたから、馬が結構好きだ。

 しかし、マリア・ド・デニム伯爵令嬢が馬に乗るなど、全く聞いたことも無い。最近は、心の病が軽減してきたせいか、たまに庭を散歩していることは聞いている。


「そうね。あの子は取っても賢くて、お馬さんとしてはベテランだから、取っても乗りやすいのよ」

「今日はそのお馬さんは連れてきていないの」

「残念だけど、今回は連れてこられなかったわ。今来ている子達とは、少し年が大きすぎるからね」


 マリア・ド・デニム伯爵令嬢が朗らかに笑う。この街に来て以来、彼女の表情は余り優れない物だった。其れが、今は心の底から笑っているように見える。家族を同席させたことは正解だったらしい。




 





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