マリア様の言う通り 2
気が進まないまま、廊下を歩くことしばし。我が娘と妻の笑い声が聞こえる。
朝食には、我が家族と一緒に、彼の御令嬢と食事をする事に成っている。妻と娘を説得して、食事に付き合うように為たのは、昨夜遅くなってからだ。昨夜の彼女の様子から、中々話が出来そうに無かったから。女の子の扱いなら、女に任せた方が良いだろうというのが、マッキントッシュ卿の判断だ。
相手は子供だ。此方に大人の事情などお構いなしで、此方の責任を追及してこようとする。物事の意味を理解していない、小娘の相手は疲れることでしか無いのだから。これがあと数年経てば、話も違ってくるのかも知れないが。今は勘弁して貰いたいと思っている。
思えば彼の父親は、国をクレーエ王国に売り払った彼の女を、死ぬまで敬い忠誠を誓っていた。どれほどの恩があるのか知らないが、此所の土地を整え外敵から、守ってきたのは我々なのだ。命がけで、戦場を駆け回り。其れこそ命を捧げていった兄たちのことを思えば、国を売り払い。この地域の支配を手にしてる、こざかしい女の言うことなど聞くことなど無いのだ。
本当に、彼の小娘は黙って金を置いて帰れば良いのに。この邦の守りは、マッキントッシュ家に任せておけば良い。領の周りはかなり不穏ではあるが、かねて からの案件である、奪われた港町の要人ともよしみを持ち。着々と奪還の気運を高めているというのに。
今はそれどころでは無いと抜かす、腰抜けばかりの兵共を解雇し。より優秀で、戦意の高い者に変えたのも、孰れは我が領地の奪還を狙ってのことだ。その様なことを、彼の令嬢に話すことなど出来るわけも無いが。必ず反対してくるのは、目に見えているからな。なんと言っても、誘拐され心を病んでしまうほど、性根が貧弱なのだから。
思えば、父上も奪われた領地の奪還を諦めてしまった。確かに、父上が要している兵隊の持つ戦力では、彼の港町ストウビトを奪い返すことなど出来ないだろう。賛同してくれる、貴族が今よりも多くなれば、彼の蛮族の国に、目に物見せてやれる。
扉の前に佇む執事が扉を開ける。お仕着せの執事服が、少し窮屈に成っているようで、はち切れそうに成っている。この男には、私の盾となって貰う都合もあり、普段から鍛錬を欠かさないように命令してあるのだ。
「どうだ」
「御令嬢は、少し寝不足に成られているようです。御機嫌はあまり宜しくないようですので、その辺りはお気を付けて」
マッキントッシュ家の執事は、彼のデニム家の影の親玉に負けず劣らず、気の利く男なのだ。この男は、父上のだいから仕えてくれている。
マッキントッシュ卿が、首にすることを考えなかった内の一人である。何より、自分の考えに対して、口を出してこないのが良い。
部屋に入ると、我妻と娘二人が和やかに、立ち上がり私を向けてくれる。彼の小娘も、礼を損なわない程度の範疇で、立ち上がり緩やかなワンピースのスカートを、そっと上げて軽く腰を提げた。いわゆるコーツイなのだが、その仕草は何処か不遜な物を感じさせる。
その物腰は、子爵の立場を持つ者としては、当然のことである。其れは判っているが、私の内心としてはかなり面白くは無い。今だに代理でしか無い、マッキントッシュ卿としては、子爵位を持つこの娘が始めから気に入らないのだ。




