なんちゃって探偵 5
「はぁ」
レイナの話を聴きながら、あまりの緩さに呆れて物も言えなくなってしまった。思わず腹のそこから溜息が漏れてくる。ついこの間まで、戦争していた国とは思えない。昔あたしが生きていた、某国も結構緩かったけれど。それ以上にゆるゆるで、信じられない。
あたしの隣に座っている、レイは呆れ返っているように見える。この短時間で、十歳くらい年を取ったようにも見える。一寸はしたないくらい、貧乏揺すりをし始めている。此奴は、苛々すると貧乏揺すりを始めるって言う、判りやすい癖を持っていた。
「こんな事を遣っていると、あっさり帝国に飲み込まれてしまうぞ。なぁ、御嬢どうにか出来ないか」
あたしの顔に、視線を向けて言ってくる。あたしがなんちゃってマリアを為ているから、マッキントッシュ卿に忠告を出来るんじゃ無いかって、彼の視線が言っているような気がした。
出来ないことは無い。今のあたしは公式には、マリア・ド・デニム伯爵令嬢って事に成っている。実はマリアは一応、子爵位を持っているから。このたびが決ったときに、奥様がマリアに、子爵位を押しつけたんだよね。彼女の言葉を、マッキントッシュ卿が無視することは出来ない。
あたしの立場が張れなければ。聞き入れない訳にはいかないだろう。主筋の娘の言葉だしね。あれでもマリアは、王国のれっきとした貴族様なんだ。
何しろ、単なる令嬢だけでは、いくら孰れ婿を取ってデニム家を支える立場になることが決っていても。其れなりの権力者に、言うことを聞かせることが出来ないからだそうだ。このたびの目的は、こうして復興が遅れている領主達に、マリアの事を信頼させることが目的の一つだから。その為の支援で在り。
マリア・ド・デニム伯爵令嬢の爵位を持たせたのだろう。あたしは、その辺り関係が無いけれど。それでも、一応姉妹だし。最近は、彼女も頑張ってはいるしね。
それでも誘拐されたときの怖さは、彼女を未だに苦しめている。確かPTSDとか言ったかな。この世界には、そう言った障害に対する理解は存在しないから。当然治療法なんか判るわけも無く。ひたすらフラッシュバックに、耐えているくらいしか無い状態だ。
この半年間の間に、彼女の症状は緩和してきて。安全だと思える邸内なら、其れなりに過ごすことが出来る様になっている。それでも、公務関係は、未だ出来ない状態だから。こうして、あたしが出張ることになるのよね。
今みたいな状況だと、間違いなくマリアに降り掛かるプレッシャーは、半端ないだろうから。人前で可笑しくなる可能性があるからね。
あと一年で、マリアが王都の学園に入学することになるんだけど。彼女の病状を考えると、とても不安になってくる。勿論、彼女に付いていくつもりだけど。トラウマが一年や半年で、解消できるかは判らないからさ。
三人の視線が、あたしを見詰めていることに気付いた。黙り込んでしまったあたしに、此所に居る全員が言葉を発することを待っている状態。天使が素通りしているって奴だ。
「御免。他のことを考えていた。何を話していたんだっけ」
途端にここの空気が緩む。レイナが笑った。




