なんちゃって探偵 4
「一ヶ月前のことなんだけど。此所の水門が酔っ払いの手で、開けられた事件があったんだ。恐らくその時に、橋の柱に鋸を入れたんだと思うのね。その時は、単なる悪戯で、軽くチェックしただけですましたみたいで。何にも問題にする人間が居なかった」
レイナは顔を顰めて、あたしにその時の事情を説明してくれる。時期も悪かったらしく、フォレ・ド・マッキントッシュ子爵が亡くなって、間もない頃だったから。総入れ替えの最中で、何かに気が付くような者が居なかった。ぽっかりと開いた、意識の隙間の時に、こう言った仕込みをされてしまったのだろう。
自分が首になるかも知れない。そんな余裕の無いときに、水門を開けるような、しょうも無い事が起きた。警戒心の無い状態で、これほど大きな事を見過ごしてしまっていた。
彼のお爺ちゃん領主様は、結構なやり手で、他の人間をあんまり信用していなくて、全てのことを自分一人で決めるような人だった。自分の息子が、既に四十を超えるくらいに成っていても、政策に従事させる事も無かった。
あたしがこの街に来た時の話しだけど。彼のお爺ちゃん領主様は、良く街中に遊びに来ては、街の衆と話を為ては、気前の良い姿を見せていた。だから、街の衆の人気者だ。
あたしが知っているのは、この街に泊った時に、聞いた噂くらいだけれど。貴族にしては、平民に寄り添った政を為てくれていたらしい。あたしが住んでいた、ナーラダ村もマッキントッシュ領に違いなかったからね。何の問題も無く、平穏に暮らせていたことから。良い領主様だったんだろう。
因みに、あたしが関わっていた徴税官は、嫌な奴だったけれどもね。村長の処で、いわゆる事務員の真似事為てたから、役人の横柄さは嫌という程経験しているんだ。
因みに、其奴は今でも彼の御屋敷に勤めている。金を小袋に入れて、御屋敷に持っていくとき見かけたから。上手いこと現領主様に取り入ることが出来たんだろう。
レイナの話を聞けば聞くほど、何て言って良いか判んないんだけど。不安に成ってくる。此れって結構、ヤバい状態なんじゃ無いだろうか。この先の城も最前線だけれど。この領都ベレタも、かなり重要な場所に成っている。此所が可笑しくなれば、この先にある国境を守る、ルクス・ド・オーエン伯爵の領都シグノが大変なことに成る。
其れで無くとも、この領都から道一本でいける港を、帝国に奪われて、既に十五年も過ぎているのだから。この領都ベレタは、間違いなく国境の町でもあるのだから。
ゲームのスチルが、あたしの脳裏に浮かんでくる。槍を片手に城の最上階に陣取った奥様が、其れこそとんでもない数の軍勢に取り囲まれているスチルだ。奥様の味方する兵の数は、決して多くない。それでも、逃げ出すことも出来ないで、敵兵に蹂躙されていく。
勿論、こう言うエピソードは、乙女ゲームのあくまでも、背景描写でしか無いから。一枚のスチルで、ほんの一寸描かれただけだ。いわば戦争の悲惨さを、用意子に判らせるための記号だ。
あたしゲームには関係ないからって、何時もスキップしていた内容だった。たぶん、一回しか見ていないと思う。しかし、この邦にとってはとんでもないことには違いの無いことで。事実上この邦を守る、要を失ったって事だから。洒落に成らないことなんだろうな。




