なんちゃって探偵 3
「判った。取りあえずフォレ・ド・マッキントッシュ子爵鋸とは置いておいて。出来ることから遣っていこう」
あたしは頭を切り換えるように、思い切って言葉を発する。どのみち、あたし達にできる事なんて、たかが知れている。此所には、科捜研も無ければ、優秀な物理学者だっていないのだから。
こう言う話しだって、一寸証拠とは言いがたいような、あやふやな話しが元になっているし。たぶんこう言う情報の出所は、いわゆるピロートークだろうと思っているんで、前世だととてもでは無いが、証拠とは言えない代物でしか無い。
しかし、こっちでは、そう言った可笑しな出所の情報でも、意外に信じられることがある。危険なことだけど、結構信憑性が有ると考えられている。だから、とんでもない冤罪が蔓延することもあれば、迅速に悪いやつを捕まえることが出来たりする。
「ようやく今必要な事に話題が移ったわね。終わっちゃった事を考えたって、どうしようも無いからさ」
と、レイナが言葉を投げてくる。その様子からは、強い女の気配が感じられる。
「さて、これからが重要な話しだよ。此れから解っていることだけを話すから、その辺りを考えて貰いたいんだ。あんたも、あたしらと同じ影働きをしているお仲間として、其れなりには働いて貰うよ」
「御嬢はそんなんじゃ無いんだけど」
レイナの言葉に、レイのやつが反論してくれている。
あたしもそんなつもりでは無いから、レイが言ってくれるのは嬉しいかな。一応マリアの陰って言えば、言えなくも無いから。レイナの言うこともまるっきり間違っては、いないのだけれど。
もしかして、この頃から、レイは悪役令嬢マリアのことが好きだったのかな。此奴も黙っていれば、王子様みたいにきらきらに見える。実際運命の王子枠には違いないから、キラキラなのはしょうが無いけれど。
ま、攻略対象者の中に、現役の王子様はいるから、其奴と比べれば随分格落ち感が、半端なかったりする。それで良いのかシナリオライター。
彼は王都に、付いていく事を願うのだろうか。出来れば付いて来て欲しくないって言うのが、あたしの気持ちではある。少なくとも、そうなれば乙女ゲームさくらいろのきみに・・・のストーリーとは違う結末を迎える可能性が、上がると思うし。悪役令嬢マリアを庇って、はいさようならは悲しすぎた。
どうも、悪役令嬢マリアの方も、彼には死んで欲しくないって思っているみたいでさ。あんなに、駄目なところを見ていても変わらないのが不思議だ。
あたしなら、いい加減なところで見切りを付ける。女にだらしない男なんて、碌なもんじゃ無いからさ。一寸悲しいのが、此れまで付き合った男の穂と度が、そう言った碌でなしばっかりだったから。何て言って良いのか判らないんだけど。
昔は男なんか、皆碌でなしだって絶望したときもあったかな。それでも、男どもが可愛く見えていたのは事実なんだよね。
こっちへ来てからは、意外にいい男がいるんで、一寸楽しみでもある。あたしが、許せる幅が広がった所為でもあるのかも知れないんだけどね。
「端の一件に関して、とりまとめた報告書は明日にでも、あんたの所に送るつもりだけど。あちらの人間に、上手く話しておいてくれると助かるかな。何しろ、彼奴ら、話の分らん奴らが多くてさ。下半身には理性なんか無い癖に、気位ばかり高くてやんなっちまう」
迫力のある笑顔で、レイナが言ってくる。この口ぶりからすると、彼女はそういった事まで、担当している。この街に住む、影の人の、取り纏め役を為ているのかも知れない。
話が進むうちに、レイナの顔が娼婦の其れでは無く。出来るキャリアウーマンに見えてきた。




