使用人とお嬢様(姉と妹)
パジャマを着た彼女は、あたしとあまり変わらない体型である事が解る。少し柔らかい身体の線は、あまり運動をしていない事が解る。
今のマリア・ド・デニム伯爵令嬢には、此れから起こる幾つものイベントをこなす体力はないかも知れない。しかも、彼女は普通の人なのだ。暗闇のなかで物が見えたりはしないのだ。その証拠に、ランプの灯りを反射する瞳の光がなかった。姉妹なのに、其処の処だけが似ていない。
もしかして、あたしは本当に呪われた獣なのかしら。この夜目が利くことは、父ちゃんと暮らする上で便利だったから、あんまり気にもとめもしなかった。だって便利じゃん。
今考えてみると、あたしは、彼女にとってはドッペルゲンガーって言う怪物だったのかも知れない。遭ったときには、彼女に成り代わってしまう怪物。そして、国を終わりにしてしまう存在。悪役令嬢と言うよりも怪物。
マリア・ド・デニム伯爵令嬢を殺さなくて良かった。あたしは怪物じゃない。たんなる男運の悪い不良少女のなれの果てなのだ。
これがあたしの現実。うっかりすると皆が死んじゃう物語の途中にいる。今回は自然の猛威による悲劇だったけれど、それでもちゃんと対策を、していればもっと被害を小さく出来たはずの物で。五年後に起こる戦争を止める事が出来るかも知れない。
「私はお嬢様の味方です。信用して頂けると嬉しいです」
片膝を突いて、騎士が誓いを立てるような仕草をまねて、マリア・ド・デニム伯爵令嬢の柔らかな小さい手を取った。彼女の栗色の瞳が、驚いたように広げられた。
あたしはこの子を助ける事で、此れから起こる悲劇を止める事が出来るかも知れない。止めなければ、ニックみたいに死んでしまう知り合いが増えてくる。ここがさくらいろのきみに・・・によく似ている以上、マリア・ド・デニム伯爵令嬢が悪役令嬢に成らなければ、同じようなストーリー展開にはならないはずで、平和を維持できるかも知れない。
「ありがとうございます。私みたいな者で宜しいの」
「顔が似ているし、信用してくれても良いですよ。少なくとも私はドッペルゲンガーじゃないですから」
あたしは微笑んで言い切った。
マリア・ド・デニム伯爵令嬢は、あたしの微笑みに、引き込まれるように微笑み返してくれる。その笑顔は邪気のない、良い笑顔だった。
あたしは遣って行けるような気がした。
いつも読んでくれてありがとう。
本年中はお世話になりました。来年もよろしくお願いします。
では、またあした。




