なんちゃって探偵?
「処で、貴方達はこの暗殺事件が、マッキントッシュ卿の犯行だと思っているの」
あたしがこの報告書を読む限り、マッキントッシュ卿か、その周辺の犯行としか思えない。ただ、限りなく怪しいけれど。絶対そうだとも思えない。何より、証拠と言えるような物が、全く見つかっていない。
此れが平民の間で起きた事件なら。あっさり引っ張って、自供を引き出すような捜査の仕方を為ただろう。実際貴族以外の人間には、基本的人権なんか在りはしないのだから。
あたしは、この年になるまで、いわゆる村娘として育てられた。この世界にある、平等な扱いなんか、全く為れていないことを知っている。一般市民と、貴族階級との間には理不尽な身分差が存在している。
まともに生活してるのなら、其れほど感じないかも知れないけれど。その身分差に対する考え方が、大きく異なっている。其れは、命の値段に換算できるんじゃ無いかな。
例えば、貴族が平民を間違って死なせても。其程重い罰には成らない。でも、平民が殺したなら、大変な重罰を科されることになる。
今のマッキントッシュ子爵を、なんの物証も無く取り調べなど出来ない。此れが、平民のそれなら、引っ張っていって、自白させて、即日刑に処すことになる。其れも、見せしめのためなのか知らないけれど。衆人環視の中で、刑が執行される。
此れまで、あたしはそう言う現場に立ち会ったことは、何回か有る。それでも、比較的軽い罪に対する物だったから、鞭打ち程度ですまされていた。なんせ、父ちゃんに溺愛されているから、そんなに血生臭い現場を見させるわけが無かったんだよね。
此れで気になるのが、本当に彼が殺したのかって事だ。この報告書を読む限り、どう考えてもアーノルド・マッキントッシュか、その近くの者が遣った事のように見える。何より、初動が遅すぎる。
真面な検死なんかされていないだろうし。何より診断しているのが、マッキントッシュ家のお抱え医師だから。その辺りも信頼にかけるのよね。
だいたい、彼のお爺ちゃんが死んだ時間でさえ。正確な時間が判らない。単純に、ヒ素でも使ってくれていれば、一発で判ったと思うのに。この内容じゃ、普通の病死としか言えないのだから。
「あくまでも状況証拠でしか有りません。それでも、俺達は其れを疑っている。何せ、この橋の件もある。その事も疑っても良いんじゃないかと思っているんだ。ただ、毒殺だって言う証拠も無い。だから、リントンさんの所に報告を上げることも出来なくて居たんだ」
「この内容じゃ。リントンさんは、何も動いては呉れないでしょうね」
「彼の領主様は、良いお客でね。死んでしまう前日に、遊びに来てくれていたから、病死なんか信じられなくてさ。色々と聞き耳を立てていたら、橋の柱に鋸を入れたやつの話を聞き込んだんでね。こうして、急遽情報を上げたって訳」
「フォレ・ド・マッキントッシュ子爵の死因が、毒殺なのか病死なのか。確定できない以上。捜査なんかできないでしょうね。未だに、正式に継承されていないところを見ると、何かあるのでしょう。未だ、奥様にこの事を伝えてはいないのよね」
なんとはなしに、何処か腑に落ちない物が有って。毒殺だと決めつけることも出来なくて、あたしは溜息を付いた。レイのやつは、我関せずって顔を為て、あたしの方を眺めている。ここは一つ、スーパー文官の凄いところを見せて貰いたい。




