影の人との会合 6
「さて、そろそろ出ましょうか」
あたしは足下から、冷えが這い上ってくることを感じながら、側に立っている二人に声を掛ける。春とは言え、未だ夜のこんな時間は結構寒い。此所は街中とは言え、其れこそ端っこだから。寒いのは当然のことだ。
其れと、レイナの香水がきつくて、一寸居たたまれない気分に成ってきた。成るべくなら距離を取りたい。あたしの身体は、未だ幼いから其れほどでも無いけれど。なんか、変な気分に成ってきたし。
昔遊んでいた頃の、男達の記憶が呼び覚まされるんで、結構気分が悪い。流石に薬は使わなかったけれど。れを使って、本当に、この事しか考えられなくなっちまった子も居たからね。あたしはそんな女になりたくは無いからね。
「これからが本題なのよ」
と、レイナが言ってくる。
「時間の掛かる話しなのかしら」
あたしの質問に、レイナが答える。その後ろで、後方支援をしていたであろう、影の人にディックが合図を送る。其れを見た男の人から、同じような合図を送ってきた。構えていた、弓を下ろす。どうやら、場所を変えることにしたみたいだ。
「そうね。結構時間が掛かるかも知れないわ。何より、貴女ともう少しお近づきになりたいと思うのよ。何より、貴女は姫様なのでしょうから」
堀の泥の中から、あたし達三人が脱出する時に、側までやってきたレイが手を差しのばしてくる。あたしに向けているところを見ると、上がるのに手を貸してくれる積もりなんだろう。流石に元王子様、こういった事にそつが無い。
あたしはレイの手を取って、なんとも言えない気分に成りながら、堀の中から脱出した。結構ズボンを汚してしまった。この時間じゃ、自分で荒るしか無いかな。マッキントッシュ子爵の洗濯メイドにお願いするには、かなり言いにくい汚れ方だ。ここに来る時点で、自分で洗うつもりだから何の問題も無い。
ジェシカ・ハウスマンさんには、文句の一つも頂くことは確実だけどね。マリアならこんな事はしないだろうしね。
此れって、乙女ゲームさくらいろのきみに・・・の世界よね。まるで何処かの、戦略シミュレーションゲームのようなんですけれど。
「処で、彼の護衛は大丈夫なの」
「心配は要らない。彼はハーケン氏の小隊の兵士だから」
レイナの疑問に、側で聞いていたディックが話に割り込んでくる。其れほど大丈夫な気がしない。信用はしてるけど。彼にあんまり、スパイみたいな真似を為て貰いたくは無い。て言うか、恐らくレイは悪役令嬢マリアの側仕えを為ながら、リントンさんの影みたいな事を為て居たと思うのね。
だから、悪役令嬢マリアが彼を重用していたんだろうけれど。あたしの気持ちとしては、そう言った後ろ暗い世界と関わりを持って欲しくは無いかな。
ただ、まあ既にあたしは、こう言った人達と縁が出来てしまっているんだけれど。なんちゃってマリアが、こう言う人達に近いとは思ってもいなかった。其れも此れも、リントンさんが悪い。今度遭ったら、文句の一つでも言ってやろうと思う。
この人達のお陰で、馬車事堀に落ちるなんて、惨事に遭わずに済んだのは、良いことだけど。あんまり関わりたくないかな。文字道理怖い世界の話しだしね。
「近くに話の出来る部屋が在る。其処で話を為ませんか。その際に、洗濯も致しますよ。そのままでは帰れないでしょうから」
と、ディックが言ってきた。
紙に書いて、報告してくれれば良いのに。あたしは切に思ってしまった。あとに残るような、物にしたくないって事かな。もしかして、あたしはとんでもないことに巻き込まれてしまっている。なんか、取っても嫌な予感を感じた。




