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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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影の人との会合

 深夜の領都ベレタの街は実に静かだ。

 あたしは何時もの胴着に、ズボンって言う格好で、背中には短弓を背負っている。腰の矢筒には、矢が五本入れてきた。腰には、一寸小ぶりな鉈を下げている。何処からどう見たって、伯爵令嬢には見えないね。

 余り考えないで作られた、街は複雑で何処か猥雑な感じがする。この街の様子は、随分昔から知っているけれど。勿論、端から端まで知り尽くしているわけでもない。少なくとも、街の中で迷子にならない自信はあるかな。

 此所の警備体制は、ハッキリ言ってザルだ。こうして、あたしが大手を振って歩いていられるのだから。まるで何処かの大魔王をやっつけるゲームの主人公になったみたいに、簡単に御屋敷を抜け出すことができた。それとも、ルークに教わったテクニックが、凄いのか。あたしの体術が、常人の其れを凌駕しているのか。

 あたしの身体は、マリアを助けてから、スペックが上がった。勿論、それ以前から、父ちゃんやニックの馬鹿に鍛錬を付き合わされてはいたけれど。特に最近は、身体の使い方が判ってきた所為か。下手な兵隊さんより早く動けるようになっている。流石に、力では如何しても適わないけどね。

 そう言えば、ゲームさくらいろのきみに・・・の悪役令嬢マリアは、其れこそ夜の王都で結構派手に暗躍していたっけ。因みに、父ちゃんは殆どゲームに登場していない。たった一枚のスチルに描かれているだけだ。其れも当然よね。何より、あれは乙女ゲームだから、悪役側の事情なんて殆ど意味ないしね。

 あたしの後方、一息で近づける距離に、急遽護衛任務を言い渡した、レイの奴が文官服のまま、後を追ってきている。彼の元王子様は、本当に何でも出来る。

 流石に、御屋敷を抜け出すのにかなりもたついたとは言え。それでも、あたしに付いてこられるだけでも大した物だと思う。何しろ、彼はあたしみたいに夜目が利くわけでもないのだから。

 護衛任務と言ったので、彼の腰にはショートソードが提げられている。私物だそうで、刀身を見たことはない。確か、王家の紋章が彫り込まれていたはずである。

 父ちゃんの隊の人には、あたしの無茶振りが通る。此れまでの良好な付き合いのたまものだと、あたしは思っている。なんだかんだ言っても、悪役令嬢マリアのハイスペックな魅力には、適わなかったりするんだ。

 こうして、御屋敷を出るまでに、侍女のジェシカ・ハウスマンさんとは一寸だけ、言い争いがあったことは内緒だ。

 彼女は深夜の街中に出ること自体、反対していてね。明日の朝に見に行けば良い。そう言ってくれていたのよね。

 あたしも、そうしたいのは山々なのだけれど。何となく早く見ておいた方が良い気がするのよね。此れは女の勘でしか無いから。説明できないのが辛いところだな。

 街には明りと言えるような物が、一つもない状態で、足下は暗い。空には、今にも雲に隠れそうな半月が掛かっていいる。雲がこれ以上広がると、本当に真っ暗になってしまうだろう。

 レイの奴は、足下を照らすカンテラの灯りに、頼りたいところだろうけれども。あたしの考案した、シャッター付きのカンテラを持って貰っている。あれは優れもので、どんなに動かしても、蝋燭の明りが消えないようになっているんだ。欠点は、小さい蝋燭しか入れられないことと、複雑なんで、少し乱暴に扱うと、簡単に壊れてしまう。

 今の処、うちの隊だけで使っている物で、たぶん実戦には不向きかも知れない。量産も効かないし。本当に、電気って便利な物なんだよね。蝋燭の明りだと、色々と不都合なことが多いんだ。




 

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