脳天気な晩餐 21
「貴女様の、初めての公務のお相手が出来て、私どもとしても大変喜ばしく思っております」
マッキントッシュ卿が、実に成れた仕草で、私に手を差し出してくる。テーブルの席まで僅かではあるけれど。其処まで、私をエスコートしてくれる積もりなのだろう。
私は彼の手に、手を乗せて可愛らしく微笑んでみせる。内心の葛藤は、絶対に表には出しては成らない。その辺りのことは、餓鬼の頃から賢者様に、何度も注意されている。
私は微笑みを顔に貼り付けながら、ようやく跡目を継ぐことの出来た、中年男性の顔を覗き込む。この年で、未だに独身だって言うんだから、不思議な物だと思う。大概は、貴族同士の遣り取りで、歳が近い物同士で、婚約をすましているものなのだけれど。
因みに、マリアにも婚約者が居る。確か、ルイーズ侯爵家の次男で、バレッタ・フォン・ルイーズ。因みに、彼はあたしより一つ年下である。お約束の攻略対象なんだけどさ。ヒロインちゃんにとっては、簡単になびいてくるイージーモードのキャラだ。ただ、後半の生き残りに関しては、かなり難易度の高い物だった記憶がある。
因みに、この名前はゲームが始まって、直ぐに変わる。バレッタ・ド・ルイーズにね。ルイーズ家の跡取りが、事故に遭って亡くなって。その時に、彼の悩みを悪役令嬢マリアは理解出来なかったみたいでさ。結局ヒロインちゃんの事が好きになっちゃったんだよね。
こうして、ナーラダのリコに転生して解ったんだけれど。彼女が好きだったのは、亡国の王子であるレイだったみたいでさ。だいたい、彼女は王都の学園に入ってから、初めてマリアの婚約者に会ったみたいで、それじゃ好きになんか成れないと思うわ。何しろ、初顔合わせの時が、ちょうどお兄ちゃんが亡くなって、葬式の最中だったから。
兄を失って、呆然としている顔を見てしまえば。尊敬できなくなってしまっても、仕方が無いんじゃないかな。
何しろ悪役令嬢マリアは、本来はナーラダのリコとして、腹に叛意を持っている父ちゃんに、育てられた人だったから。その辺り、結構厳しい見方をする人だったみたいでね。その割に、ヒロインちゃんを虐めていたのはどういう事なのかなって、少し疑問にも思うけれど。
あんな軟弱なことを言っている、婚約者のことを見限ってしまっていても仕方ないよね。あくまでも、自分が殺したマリアの許嫁でしかなかったのだから。
この辺り、あたしも彼女に聞くわけにも行かないし。想像するしかないんで、その辺りは藪の中だ。
でも、レイの事を考えるときの、なんと言えないドキドキする感じは、恋の予感と言っても良いんじゃ無いかな。感想としては、悪役令嬢マリアは結構初心なんじゃないかって思う。
あたしとしては、レイの奴に恋心を感じるまでには至っていない。どちらかって言うと、王子様の方が好みに近いかも知れない。因みに攻略難易度は、そこそこ後半の生き残りに関しては、其れなりに楽の出来るキャラだ。動かせる戦力を持っているって言うのが、何より大きいキャラだ。
御屋敷に連れてきた、カナハのサウラはこの王子様攻略すると、お助けキャラとして登場する。この子に会うことで、王城の秘密の抜け穴を知ることが出来る。何で、彼女がデニム子爵の砦に居たのか不思議なんだけどね。
どう考えても、デニム子爵の砦に居たら。王城の秘密に精通することなんか出来ないよね。




