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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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脳天気な晩餐 19

 マッキントッシュ卿の執事さんが、恭しく頭を下げる。そして、私達の前の扉をそっと押し開けた。シンプルなデザインの木の扉は、随分年季の入った物らしく、所々に黒い染みが付いている。

 まぁ。そう言う事なんだろうな。こう言った建物には、其れなりに人に言えない事件が起こるもんだ。私としては、大事な村の衆が苦しまないようにしてくれるなら、その辺りはどうでも良い。

 屋敷の中は、如何したって暗くなる。良く掃除されてはいるけれど。其れだって、完全に綺麗にすることなんて出来ないもんだ。何より、頑張って明りをともしてはいるけれど。如何したって、薄暗いのは仕方が無いだろう。あたしに取っては、これくらい明るければ、昼間と全く変わらないのだけどね。

 植物性の油は、結構高価な物だから。子爵の経済状態を考えれば、昼間のようには明るくなど出来ない。この油は菜種油かな。

 私はこう言うことを目に為ながら、腑に落ちない気がしている。どう考えても、マッキントッシュ子爵の経済状態が可笑しい。若しかすると、見栄を張りまくっているのかも知れないのだけれど。

 私みたいな、子供に見栄を張りまくっても意味なんか無い。此れが、奥様に対してなら解る。

 部屋の中は、結構な明るさだ。ランプシェードだろうか、其れが二台にテーブルには、形の違う燭台が置かれている。そのどれもが、蜜蝋で作った高額な蝋燭を使っていた。

 部屋の奥には、結構使い古された暖炉が鎮座しており。薪が炎を上げている。何しろ春とは言っても、夜に成ると結構冷えることもあるからね。こう言った暖房は無いと困ってしまう。

 マッキントッシュ卿は、あたしが部屋に姿を見せると、立ち上がり私達を迎えるべく、近付いてくる。此れまで、一寸若くて綺麗な女の人と、何か話していたらしく。近付いてくるに従って、甘い香りが鼻を突いた。一寸香水の匂いがキツいんじゃ無いかな。

 この人、私が来る間、何を為ていたんだろう。使用人の表情を見る限り、何時ものことなのかも知れないけれど。あんまり、子供には見せられないことなのかな。見えないところで、何を遣っても構わないけれど。あんまり尊敬できることでは無いわね。きっと、本物のマリアだったら、嫌な顔をするような事だろう。あの子は、年相応に乙女だからね。

 なんか、あたしの中に居る、もう一人のナーラダのリコが、意地の悪い笑顔を浮かべているような気がした。此れって嫌な物だな。そう言えば、結局彼女も、恋に恋する乙女だったのよね。乙女ゲームの登場人物だから、その辺りは仕方が無いことなのかも知れないけどさ。

 このあたしは、結構な数の男を知ってる。殆どが屑だったけれどね。色んな屑を知る度に、恋心なんて擦り切れちまっていたんだよね。最近、どうも純情が戻ってきているみたいでさ。なんか、可笑しな下心を感じると、ムカムカしてくるんだ。

 今が、ちょうどそう言う気分なんだ。マッキントッシュ卿の視線は、少し馬鹿に為ているような物で、いわゆる侮っているんだろうな。多少は嫌らしい感情も混じっているかな。

 こう言う視線は、たぶん私の方は許せないんだろう。こう言う気性だから、王国の学園で上手く立ち回れなかったのかも知れない。彼の扉の黒ずみなんかも、一寸許せない気分に成る。悪役令嬢にしては、結構正義感があるんだね。此れは考えすぎかも知れないけれど。彼女があんな事をしてのは、変に正義感があったからなんじゃ無いかな。

 ジェシカ・ハウスマンさんが、そっと私の背中に手を当てる。部屋に入るのに、彼女は手間取っていたみたいだ。打ち合わせでは、一緒にここへ来る予定だったけれど。


「申し訳ありません。扉に大変興味深い物がありましたので、少し足を止めてしまいました」

「何かありましたかな」


 マッキントッシュ卿は、何か解らなそうな表情で、ジェシカ・ハウスマンさんの言葉をスルーする。



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