脳天気な晩餐 17
王族教育って言うけれど。そのポテンシャルはとんでもない。兵隊としても優秀で、読み書き計算が出来て、この邦と自国の言語が理解できる。其れだけでもチートじみているのに、御貴族様の遣り様を解っている。彼の年齢で、これだけのことが簡単にできる。亡国の王子って言う設定は、伊達ではないって事かな。
だから、悪役令嬢マリアが彼を自分専用の執事として、王都に行くときに無理遣り連れて行った。何より、ゲームの隠れキャラだし、とんでもないイケメンだもんね。
何となくだけれど、悪役令嬢マリアが本当に好きだったのは、レイの奴だったんじゃ無いかって、最近あたしは思うのよ。本格的に、彼女が可笑しくなったのは、レイが死んでからだからね。今は、本人に聞くわけにも行かないからさ。
彼奴は確かに優秀で、見た目も違うけれど。とんでもない訳ありだから、悪役令嬢マリアが夫になんか出来ないわけで。拗れちゃったのは仕方が無いことなのかも知れない。
「マリア様。マリア様」
控えめなサリーさんの言葉に、あたしの意識が戻る。メイドの立場としては、一寸困らせてしまっただろうか。今は側に、ジェシカ・ハウスマンさんが居ないから、支度が出来たと告げるために、あたしに話し掛けなければならない。
あたしは訳分らなくなっているけれど。本来は、メイドから主人に話しかけることは推奨されない。この辺りは、貴族同士でも位の下の人間から、上の人間に話しかける際には、其れなりに手順が必要で、結構面倒くさい物があるんだ。
この部屋に、あたしとサリーさんだけなら、同じメイド仲間の関係だし。どちらかと言えば、あたしの方が目下になるから。気軽に話しかけることも出来るけど。此所には、マッキントッシュ子爵の所のメイドさんが居るから。
サリーさんも、メイドの立場で対応しなければならない。あたしが、着替えを手伝って貰いながら、自分の世界に入り込んじゃったから。本当に、申し訳ない。
普通の会食用の、青いドレスに、着替え終えていた。この感じだと、結構長い間、考え事をしていたみたいだ。お手伝いのメイドさんが、一寸困り顔で、手鏡を捧げ持っていた。因みに、この手鏡は結構真新しい良い物だ。此れって、高かったんじゃないかなって思う。
平民なら、こんな手鏡を一生手にするような品物じゃ無い。何処から手に入れたんだろうな。
ここへ来て、奥様に言われたことを思い出す。マッキントッシュ子爵の出来るなら、帳簿を確認しておいてちょうだい。どうやら、彼の帳簿を調べることが出来なかったらしいんだよね。一緒に行った、伯爵様が取っても邪魔してくれたらしいからね。
其れもあって、今回連れて行く文官は腕の立つ者をってことで、レイの奴を連れて行くことになったんだ。流石に、斬った張ったが出来て、帳簿を見られる文官なんて、デニム家には居なかったからね。
そう言う意味じゃ。あたしも帳簿が見られて、荒事が出来て帳簿が読める。奥様的にも、今回は適当だったって事なんだろう。何しろ、あたしの得意分野だからね。何処まであたしの事知られているんだろうな。一寸怖いよね。
「マリア様ドレスのご用意は出来ました。此れから、お化粧を致しますので、おかけ下さい」
いつの間に、用意したのか。テーブルの上に、簡易な化粧セットが用意されている。因みに、この化粧セットだけれど。何と、奥様が用意して下さった物だ。ハッキリ言って、あたしら平民には、小瓶の一つだって買うことが出来ないお高い物だ。
正直成れないね。此れまで、何度も化粧して貰っているけれど。前世でもすっぴんが基本だった、あたしとしては少し小っ恥ずかしい。




