脳天気な晩餐 9
マッキントッシュ子爵の御屋敷は、堅牢な造りの建物だった。見ようによっては、小城と表現できるくらいの物だ。作りかけの城壁は、かなり高く作ろうとしているのか、ここからだと街の様子を見ることが出来ない。
今は足場があるから、その気に成れば簡単に、外に出ることも中に入ることも出来そうだ。何より、警備の役割をしている兵隊さんの数が、決定的に足りない気がする。
あたしなら、簡単に忍び込むことも外に遊びに行くことも出来そうだ。今のままなら、ベレタの街は簡単に落ちるだろう。お隣の野蛮人の集団には、適わない。あっさりと陥落するだろうな。
その時、この街の住人達はどうなるんだろう。ゲームの設定だと、男は殺され女は犯されることになる。其れが、この街だけでは無く。この広大な、王国全てで行われる此所とに成る。如何したら、そう言う事が起こらないように出来るのか。今のあたしには、答えが見いだせないでいた。
この世界に転生したって気が付いたとき、あたしは本当に小さかった。その時思ったことは、あたしがマリアを殺さないで、悪役令嬢に成らなければ、そう言うイベントは起こらないんじゃないかって思ったのよね。
マリアを助けて、デニム家の中に入って判ったことがある。彼の野蛮人の国は、ずっと昔から、ここら一帯を支配下に納めようとしていたって事。悪役令嬢マリアがいようと居まいと、奴らの正義の行いは実行されるって事だ。
彼奴らの神は、自分達以外の神の存在を否定する。最も神に愛されている民族は、自分達で在り。それ以外は、自分達が神に許されている土地を違法に占拠している、家畜にも劣る怪物なのだから。調伏して、出て来た地獄に返してやるのが、神の慈悲だって思っている。
あたしに言わせれば、とんでもない事だ。あそこの国の支配者階級にとって、手頃な土地だから奪いたいだけだろ。そして、支配するには難しそうだから、こっちを魔物として滅ぼそうとしているんだ。忌むべきモンスターなら、挽きつぶしても心は痛まないから。
半年前にあった、事件に関わっていた人間は、奴らに支配されている国の二等市民って呼ばれる人達だった。奪われ、犯された女の人が産んだ混血児。あたしらに良く似た容姿の人達だけど。何処かが違う違和感を感じさせる人達だった。
もしかしたら、あちら様の目にはあたしらが、恐ろしいモンスターに見えていたりしてね。孰れ勇者様が現れて、魔王の国を滅ぼすなって話になっていたりしてね。冗談でも、話しに為たくも無いことだけど。
差し詰め、あたしなんかゴブリンアーチャーって役回りだったりして。父ちゃん辺りは、ホブゴブリンって処かな。あたしなんか、こんなに可愛いのにね。
そんな詰まらないことを考えながら、あたしはマッキントッシュ卿にエスコートを為れている。タイプじゃ無いし、一緒に歩いていて、楽しい人でもないから。こんな事を考えてしまう。手をふりほどかないだけましだと思って欲しい。
あたしの後ろには、ジェシカ・ハウスマンさんがあちらの身なりの良い年季の入った、執事さんにエスコートされている。あっちの方がダンディーで、その知的な感じが為て、一寸良い叔父様だと思う。その後ろからは、護衛を任された、アップル叔父さんの処の兵隊さんが二人付いて来ている。
サリーさんには、マシュー君の奥さんの所に行って貰っている。何となくだけど、あたしに用事があるみたいに見えたのよね。。今の処、あたしは忙しいから、直接聞きに行くことも出来ないから。同じメイド仲間として、行ってもらった。
そう言ったお願いも、ジェシカ・ハウスマンさんが居ると、彼女の話しかけることいで、お願いする感じになる。本当に、御貴族様って面倒よね。




