脳天気な晩餐 8
何か用事があるのかな。彼の様子だと、あたしに話でもあるんだろうか。無視できないけれど、今のあたしは目の前の叔父さんの、相手をしなければならない。恐らくこのまま、御屋敷に迎え入れられることになるだろうし。
少しの休憩時間は取れるかも知れないけれど。それでも、そんなに長く休んでは居られないだろう。此れまでも、寄った村の中で、あんまりゆっくりと休憩が出来た記憶が無い。何故か、其処の村の長から、其れこそこれでもかって言うくらい歓待されてしまってね。
出て来た料理は、流石に村の中でも、頑張った物に成ってはいた。それは判るのだけれど、領都で食べる料理の類いと比べると、一寸残念な感じが為たことは内緒だ。
ただね。この世界には、豊富な香辛料がある訳でも無いから、その辺り厳しいのは仕方が無い。摂れる野菜だって、いわゆる野地物でしか無いから、如何しても偏ってしまいがちになるから。
年寄りでは無いのだけれど。昔は良かったなって思ってしまうのを、許してほしいものだ。
何処に行っても、定番の料理は煮込み料理になってしまうし。折角出た旨味成分を、捨てて居るみたいだから、一寸この辺りは仕方が無いことなのかも知れない。
何より。香辛料もそんなに多く入ってこないし。砂糖だって、そう簡単には手に入らない物だから。その辺り辛いよね。醤油や味噌の味が懐かしく思ってしまうのは、いけないことなのかも知れない。何処かの転生者の人達は、上手く見付けて、手に入れるのだろうけれど。今のあたしには、そう言った伝がまるで無いんだ。どっちに為ても、昔は料理なんか為なかったから。精々味噌汁くらいしか作れないんだよね。
こっちに来てから、もっぱら煮込み料理が主流だったし。少し大きくなってからは、父ちゃんの代わりに、台所に立つこともあったから。料理は出来るけれど。いわゆる田舎料理の類いばかりなのよね。基本的には、少ししょっぱい系の煮込み料理が得意だったりする。
何しろ庶民には、香辛料や砂糖なんか手には入らない物だから。塩で味を付けるのが背一杯だった。
マッキントッシュ卿が、あたしに少し苦笑いを浮かべながら、手を差し出してくる。お子ちゃまである、マリアのことを令嬢として、扱わなければ、あとで奥様に言いつけられるかも知れない。そう言った厄介事には、これ以上関わり合いたくないって、顔に書いてあるように感じた。
ここへ来る前に、マリアに聞いているのだけれど。この人は、彼のお爺ちゃん領主様のご子息で、マリアは気が利かない叔父様だって言っていたっけ。ぶっちゃけ、あんまり好かれてはいなかったって事に成る。
因みに、彼のお爺ちゃんマッキントッシュ卿のことは、結構気に入っていたみたいだ。彼女が、餓鬼の頃地方領主が集まって、全体会議をするらしいんだけれど。その時には、珍しいお菓子なんかを持ってきてくれたのが、彼のお爺ちゃん領主だったらしい。
とりあえず微笑みを浮かべて、マッキントッシュ卿の手にそっと手を乗せる。心に中で、貴族令嬢らしくあるように、あたしはマリアと唱えながら。
手を乗せた感触は、意外にも堅くて。掌には剣胝が出来ていることに、一寸だけ意表を突かれた。この人は、少なくとも肉刺が出来るほど、剣の鍛錬をしているって事だ。貴族の男子としては、当然のことだけれど。見た目より、鍛えているんだな。
この肉刺の大きさからすると、兵隊さんよりは鍛えていないけれど。足を引っ張らないで済む程度には、鍛えられているって事だ。顔を見る限り、バリバリの戦好きにも見えないかな。




