脳天気な晩餐 4
「兎に角御嬢様は、御嬢様らしくして頂ければ、此れまでだってそうだったでしょう」
と、ジェシカ・ハウスマンさんが声を潜めて言ってくる。
今は領民の視線が痛いくらい、あたし達の一挙手一投足に突き刺さってくる。この視線は、滅多に見ることの出来ない。自分達の支配者階級に対する、複雑な感情の表れだと思う。少なくともこの領地の財政は、決して旨く行っていない。当然領民は楽な生活をしていない。
あたしが知っているベレタの住民は、少し快活でお祭り好きだったと思うんだけど。今の彼らを見る限り、そんな感じが為ない。何処か批判的で投げやりな感じがする。見ようによっては、領主様が嫌われているんじゃ無いかって気がするほどだ。
其れが元で、デニム伯爵家の人達も嫌われ始めている。そんな気がするほどに、雰囲気が悪い気がするんだよね。この街に住人は、其れなりに悪人もいるし。言い人間だって其れなりに居る。あたし達が付き合っていた、街の衆は皆明るくて、気前のいい人達ばかりだったと思うんだ。其れが、一寸違う気がするんだよね。
あたしが住んでいた、ナーラダ村は奇跡的に、旨く回ってはいたのだけれど。それでも、半年前の水害の影響は無視できない物に成っていた。何よりも税金の徴収が高くなっている。
ぶっちゃければ、主食に成っているパンなんだけれど。小麦の精米やパンを焼く焼きがまを、貴族階級が押えているから、当然のことだけれど。自分達で小麦を育てていたとしても、自前でパンを焼くことも出来ない。何が何でも、領主の管理している店舗から、製粉された小麦や焼かれたパンを買わなければならないんだ。此れって、明らかな税金よね。
此れまで、ここへ来るまで、いくつかの領主に治める領地を通ってきたのだけれど。水害の被害が無かった、領地の財政は其れなりには回っているように見えた。其れが、このマッキントッシュ家の領地に入ると、かなり領民の表情が悪い。水害に直接在っていない場所の村でも、困り顔を見ることが多くなった。
「ジェシカ。大夫雰囲気に違和感があるのだけれど。貴方はどう思う」
「御嬢様。どういう事でしょうか」
「此所に集まっている人達の様子が変なのよ」
「あの……御嬢様。私は、この街に初めて伺ったので、一寸判りかねます」
「何て言って良いのかな。私はこの街のことを知っているのだけれど。こんな事に成ったら、手伝うって言ってくる人間が結構居るはずなのに。そう言う人が誰も出てこないからよ」
あたし達が困っている姿を、面白がってみている人や悪意を感じさせる視線を向けてくる人が、結構いることに気がついちゃったのよね。あたしが、父ちゃんとこの街に泊ったことも、結構在るのだけれど。こんな感じでは無かった気がする。
「どのみち手伝わせるわけに行きませんから。そう言ったうろんな人間が居ないのは、助かりこそすれ何の問題にもなら何のでは無いでしょうか」
ジェシカ・ハウスマンさんは、当然のことを言っている顔で、あたしに答えてくる。
もちろんのその通りなのだけれど。この街の人達のお節介は、そういった事ではないんだよね。兵隊さんが、そういった人達を、止めるに為しても。手伝おうとする人が、一人もいないなんて、一寸可笑しい気がするんだ。
領民の性格が、半年で劇的に変わった。そんな事ってあるんだろうか。




