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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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一寸したトラブル 10

「御嬢様お足元にお気を付けて」


 レイの奴が、決まり事のように言葉を掛けてくる。本当は別に気遣って言っているわけでも無い癖に。自分は木賃と仕事を為ていますよって、他の連中に対しての演出なんだろうな。

 足下に草が生えているところまで、あたしとレイは、一緒に降りた。ここからなら、橋の下側が見られるし、橋の上からでは見られないような物も見ることが出来る。

 降りてみれば、何か見付けられるかも知れないと思っていたのだけれど。残念なことに、複数人の足跡があるくらいしか見付けられなかった。この橋の下にどうやら住み着いている人間が居るらしく。きったない毛布が丸めて、隠すように置かれている。

 いわゆる乞食の定宿になってでも居るのかも知れないな。今は、あたしが来るから,追い出されて居るのかも知れない。昔のことだけど、ホームレスの人達が、役人の人達に追い出されている、映像をテレビで見た記憶があるから。こっち側でもあると思うしね。

 むしろこっち側の方が、酷い扱いを受けているかも知れない。何しろ、この世界には人権なんて言う考え方なんか、あんまり育っていないみたいだし。あっちでも、本当に人権なんて考え方が、本当には根付いていはいなかったみたいだから。その辺りは仕方が無いことなんだ。

 いわゆる一般人の生活と、貴族の生活は全く別物だ。何より明日食べる物のことを心配しなきゃ行けない者と、そうで無い物との間には天と地ほどの差がある。当然のことだけれど、その命の値段だって違う。そう言った大きな落差については、乙女ゲームさくらいろのきみに・・・では触れられていない。そう言う物には、ゲームをする者には、興味の無いことだから。描かれないのだけれど。生きていると実感として、酷く理不尽で可笑しな事だって判ってしまう。

 それでも、此所は紛れもない現実で。此所に生活している人間にとっては、リアルな生活がある。よほどのことが無ければ、皆そこそこの処で、諦めるもんなんだけど。昔も、そうやって死ぬまで生きている。どうしようも無いことだから。

 あたしなんか、早々とこっち側に鞍替えしてしまったんだけど。こっちに来てまで、早死にはしたくないし。此れからどうなるか、一寸は知っているから。上手くやれると思ったんだけど。何だかどんどん、あたしが知らないことばかりが起こるのよね。

 最初にマリアを助けちゃったから、決定的に変わってしまったのだろうか。このお陰で、昔遊んでいた乙女ゲームさくらいろのきみに・・・で、描かれていたエピソードが様変わりしてしまった。手探りで、フラグを潰していかなければならない。

 橋を支えている、柱の太さは腕の肘から指先までの長さだろうか。見た感じ、職人が丹精込めて皮を剥ぎ取り、綺麗に磨いたことが判る。未だに柱は綺麗なままだ。恐らく使われている木材は、チーク材だろうか。正直、半年で折れてしまうなんて、一寸信じられないことだ。

 水堀の水面は、未だに下がる気配が無い。柱が折れている場所を見られるのには、この分だと暗くなってからだろうか。出来れば、何故こんな事に成ったのか、早く知りたい。

 此れは考えすぎかも知れないのだけれど。このトラブルには、偶々とは言えない嫌な感じがするのよね。何より、あんなにあからさまに、リントンさんの影の人が、顔を出してくるなんて、少し異常なことだと思うしね。

 あたしはふと、視線を上げて、未だに野次馬達の集まりの中に、見知った顔を探したけれど。其処には、既にいなくなっていた。

 あたしに接触することは流石に出来ないか。あとで、話しに来てくれることを願っておこう。


 



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