使用人とお嬢様
小さな部屋の寝床は、なんと綿の入れてある布団を使っているのである。あたしは、此れまで麦藁にシーツを乗せただけの、貧しい物に寝ることになれてしまっているので、これだけでもこの待遇は気に入っている。
あたしは、今の今まで庶民の生活が貧しい物だなんて、考えても居なかった。知らなければ、自分たちが貧しい生活をしているなんて思いもよらない。今あたしは心の片隅で、マリア・ド・デニム伯爵令嬢を助けた事を、後悔している。どのみち貴族の争いに巻き込まれるのなら、彼女に成り済ました方が良かったのじゃないか。すごい贅沢な生活が、伯爵令嬢という立場には付属している。それだけでも、魅力的ではあるような気がする。とは言っても、今となっては手遅れではあるのだけれど。
外からは見えないように、工夫されている窓からは良い風が入ってくるので、寝苦しいって言う事はない。隣の部屋は、村に時々やってくる、徴税官を泊めるたの部屋だ。そいつがここへやってくる頃に、あたしが呼び出されて、書類整理のお手伝いをすることになる。父ちゃんとする狩りより良い金になるバイトだ。
あたしは意を決して、客間への扉をノックした。いい加減大人しく寝て欲しい。彼女と違って、こっちは結構な労働をしているのだから、明日のために眠りたいのだ。いい加減明日は、ニック達を埋葬してしまわなければ行けない。だいたい子供は、暗くなったら眠る者なである。
マリア・ド・デニム伯爵令嬢の歌声が途絶えた。扉の向こうから、緊張している気配がする。
「眠れないのですか・・・。明日も早いのですから、いい加減に眠って頂けないでしょうか」
あたしは思いっきり猫を被った、声を掛ける。そう言う声を出しながら、苦笑を浮かべた。ちなみにメイドさん達の真似である。どこか間違った使い方をしているかも知れないけれど、所詮平民なのだから良いよね。
「だって眠れないのですもの。隣には、何をしてくるか解らない貴方がいるし。お母様はまだいらっしゃらないし。ベットはあまり良くないし」
伯爵令嬢がそんなことを言っている。あたしや信じられない。客間へと通じている扉のノブに手を掛けた。どんな顔をして言っているのか見てやろうと思う。
読んでくれてありがとう。




