一寸したトラブル 4
「何方が其れを知らせてくれたのですか」
「さあ。私は知りません。先行していた兵の報告で其れを知っただけです。勿論、先行していた兵が気付いたわけでも無いので。地元の住人からの通報のようです」
レイがあたしの質問に答える。其れは事実だろうけれど。何処の何方が、あたし達を助けてくれたのか。どうして、柱が折れていることに気付いたのか、気になるところだ。
取りあえず集まっている人達が、道を空けてくれたので、橋の処まで足を進める。勿論、あたしの右手を恭しく捧げ持つ、金髪碧眼のイケメンは一緒に付いてくる。そして、左隣には秘密のポケットに手を突っ込んでいる、赤毛の侍女ジェシカ・ハウスマンさんが、怖い目をしながら付いてくる。
彼の顔は、無言であたりの人達を威圧している。こういう時には、アーノルド・マッキントッシュ子爵の私兵の人達が、ガードマン宜しく通せんぼを為なければならない筈なんだけど。未だにそう言ったアクションを取る気配が無い。こういうのを練度が低いって言うのかな。
領都ベレタの水堀に駆けられた、橋は珍しく木造である。実はこの橋は、去年の水害で壊れてしまった、石橋の代わりに作られた臨時の橋だ。だから、構造としては、結構造りが雑に出来ている。
あたしが今回持ってきた、復興資金お代わりを使って、落ちた橋より頑丈な石橋を作る計画があったはずである。だから如何だって話しでは、あるんだけど。此れも、あたしが確認と計画の洗い出しをするように、言われているんだよね。奥様はあたしが、何でも出来ると思っているのかも知れないけれど。そんなことは無いんだけどな。
元不良に、そう言った公共事業のことなんか判んないからさ。前世で、そう言ったお仕事を遣っていたなら、其れなりに見られるとは思うんだけど。高校中退の、元不良にどうせいって言うんだと言いたい。
一応、賢者様に仕込まれてはいるよ。其れだって、事務員に毛の生えた程度なんだ。
どうやら、あたしがナーラダ村で河川改修の時に、色々と工夫を教えたから、どれが取っても大袈裟に伝わってしまっているみたいで。リントンさんや奥様なんか、あたしがマリアの代わりに、現場に行って指揮を執れば、結構スムーズに事が進むと思っているみたいなんだ。
あたしは声を大に為て、言いたい。そう言ったチートの才能なんか、全くないんだからね。
奥様なんか、餓鬼の頃なんかは結構な、チートだったらしいけれど。今は普通の伯爵夫人だからね。未だに、女領主を遣っているところは、チートでは在るんだろうけれどね。
橋の橋台のあたりで、足を止めて、安普請な欄干に手を添えて、橋脚のあたりを覗き見る。水面を見る限り、何処にも異常は見受けられない。折れているのは、水面下の結構深いところ何だろう。上から見ていたんでは、柱が折れているなんて気付く事なんか出来ないだろう。
ふと誰かの視線を感じて、あたしが顔を上げると、街の衆の話し声が聞こえてくる。大勢で一度に話しているから、中々聞き取れないので、此れまであたしの意識に入ってきていなかった。結構野次馬の数が多い。中には、あたしの事を可愛いなんて言っている声が聞こえてくる。そう言った話し声ばかりじゃ無いけどね。
文句を言っている声も聞こえてきているんだ。あたしの耳も結構良いからね。こう言った声を、いちいち聞いていたら可笑しくなっちまうから。上手い具合に、脳が効かないようにしているんだよね。
「姫様」
一寸聴きず手なら無い言葉が聞こえてきた。声の方に、顔を上げると其処には、見知った顔があった。




