御領主様との邂逅 10
此所に居る全員の視線が、あたしに集まってくる。本来ならば、こう言った時にこそ、此所で一番位の高い人間が、責任を持って判断する。アップル叔父さんかオーエンス・オーベルジュのどちらか、それともジェシカ・ハウスマンさんが決断するべきだと思うのだけど。
レイが聴きに来ているって事は、この車列の責任者はこのなんちゃってマリアにあるって事なんだろう。レイの奴は、あたしがナーラダのリコだって知っていると思うんだけどな。
「どういう事なの?」
と、あたしは尋ねる。其れだけでは、今のあたしには何がどうなっているのか分らないからね。
「街の中に入るための橋の、土台の柱が折れているみたいなんですよ。人が通る分には、それほど危険は無いみたいなんですが、流石に四頭立ての馬車は無理かも知れないそうです。修復には、結構な時間が掛かるみたいで、どう致しましょう」
其れってどうもこうも無いよね。馬車は橋を渡れないとしても、人間は渡れるし。馬単たいなら十分渡れるよね。持ってきている荷物の方はこのまま外に置いておくわけにも行かないけれど。その辺りは何とか出来るんじゃ無いかと思う。何しろ、実はあたし達のお尻の下には、結構な額の金貨が鉄の箱に入れられている。いわゆる復興資金のお代りなのよね。
一応現場を見てみないと、なんとも言えない。どんな感じに壊れているのか、修理にどれくらいの時間が掛かる物なのか。レイの説明じゃ、さっぱり判らない。兎に角現場を見てみないと。
もっとも、あたしはそう言った土木工事の専門家でも無いから、見ただけでは判らないのだけれど。ま、こうして馬車の中で待っていても、退屈で死んでしまうかも知れないしね。
「ジェシカ。私も現場を見に行きます。付いて来なさい」
あとが怖いけれど。マリア・ド・デニム伯爵令嬢の口まねで、ジェシカ・ハウスマンさんに命令する。
あたしは心の中で、あたしはマリアって三回詠唱する。マリアなら、彼女を呼び捨てにするのは、当たり前のことだし。下手にさん付け出呼ぼう物なら、そっちの方が問題になるような気がする。
こっちは後回しにして、他の場所を回った方が良いのでは無いかって、少しだけ頭の中に考えが浮かぶ。何しろ、あたしが其れを見たからって、何ができるわけでも無いし。既に職人は呼ばれていると思うし馬車の扉の前にステップを下ろして、ジェシカ・ハウスマンさんが降りるエスコートしている。
それに続いて、サリーさんが同じようにエスコートされて、馬車を降りる。あたしはどんなときも、一番最後に降り立つようになっている。こう言う決まり事は、本当に面倒くさい。良く悪役令嬢マリアの奴は、こう言うことを演じきったと思う。
あたしが降りるとき、ジェシカ・ハウスマンさんは、少し侍女らしくない視線をあたりに向けている。軽くメイド服のスカート部分に手を遣っている。彼女の手の位置は、秘密のポケットのあたりだ。あそこには、彼女の懐剣が隠されているんだよね。
メイドと侍女の違いについて、お見舞いのさいに、ドリーさんに聞いたのだけれど。侍女は基本的に、貴族の娘が行儀見習い(婚活)として、高位の貴族に仕える。その際、侍女の仕事は、主人と平民出のメイドとの橋渡しと、主人を身を挺して、守ることだそうだ。
あたしは引いたことを憶えている。此れもジェシカ・ハウスマンさんの普段通りの行動何だろうな。何時もそうしているから、結局癖になっているんだろう。




