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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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御領主様との邂逅 8

 ニックはモブ処か、さくらいろのきみに・・・の何処にも居場所がなかった。だから、あたしは奴が死んじゃうなんて、思いもよらなかった。そりゃ、既に鬼籍に入っていれば、資料集にすら、書かれるわけも無い物ね。その辺りは仕方が無いのだけれど。

 ただ、村の賢者様という行はあった。運河の反乱で、賢者様が行方不明になったけれど。不思議な事に、賢者様の名前はあったのよね。

 悪役令嬢マリアの恩師って言う役回りでね。それなら、ニックだって、有ったって良いと思うのに、本当はかなり後悔してるんだ。賢者様やニックのことだって、助けることが出来たかも知れない。

 あたしの記憶なんて、碌なもんじゃ無いのだから。あたしが出来なかったって言うのは、しょうが無いとは思う。それでも、時々は心が痛むときだってあるんだ。

 彼の二人には、一寸返しきれないくらい、色々な事を教えて貰った。其れはもう、言葉に出来ないくらい色々だ。

 主にニックには、人にあんまり言えないような悪いことを習った。例えば木々開けの技術や、封蝋の偽造方法とか。元泥棒だって聞いていたけれど。其れこそ怪盗なんて呼ばれていたりしてね。

 そんなことを考えながら、目の前に立つ二十代後半と思われる。アーノルド・マッキントッシュ子爵を観察する。風貌からは、良くも悪くも典型的な御貴族様だ。

 彼はつい最近家督を継いで、マッキントッシュ家の当主に成ったばかりだそうだ。こう言った知識は、ここへ来る間のジェシカ・ハウスマンの御貴族講座の中で語られた。あたしに取っては、大変苦痛な時間だったことを、そっと日記に書いておいた。

 彼女の講座のお陰で、馬車の中で退屈はしなかったけれど。出来れば寝たかったなって言うのが、本音としてあったりするんだ。

 因みに、その時同乗していた、サリーさんは思いっきり睡眠を取っていた。良く眠れるなって、思ってみていたら、彼女の耳には栓が為れていた。流石ベテランメイドである。

 馬車の揺れはかなりの物だから、先ず眠れやしないと思うのに。耳栓をして、寝たふりをしているだけでも、結構休める物なんだろう。鼾をかいていたのは内緒である。

 マッキントッシュ子爵を守るように、彼の私兵達が取り囲んでいる。金属の板金を縫い付けた、皮鎧にショートソードを腰のベルトに提げている。此れが彼らの標準装備になるんだろう。三人の兵隊は、手槍を持ってショートソードを提げている。

 少し離れたところに、一頭の馬が手頃な、木の幹に手綱を軽く巻き付けただけで、待たせているようだ。あの馬は大変賢くて、主人に忠実な子なのだろう。一頭しか居ないところを見ると、あれがマッキントッシュ子爵のお気に入りだって事が判る。

 兵隊さん達は、此所まで徒歩できたって事かな。そして此れから一緒に街まで、向かうことに成る。正直ご苦労様としか言うことが無い。こう言った行軍も、兵隊さんのお仕事の一つだから、その辺りは仕方が無いよね。精々順調に行軍して、暗くなる前にお家に帰らせて上げたいな。

 酒ぐらい飲ませてやれよと、きっとニックなら言ってくるだろう。一寸今のあたしは、ニックのことを考えていたもんだから、そんなことを思ってしまう。やだ、ニックの思い出に引きずられてしまっている。気を付けないとな。

「此れより我々が、マリア様一行をご案内いたします」

「其れはありがとう御座います。御当主様自らのお迎え、大変感じ入っておりますわ」


 本当に貴族同士の話しって、何処までも面白みに欠けるのよね。それに、言葉の裏側には、物凄い本音がありそうで、あたし的には怖い物がある。悪役令嬢マリアの奴は、良くこんな世界で生きていられたもんだと思う。

 彼奴らの腹の中に、大変迷惑だって気持ちがあるのが、何となく判るんだよね。其れが、あたしに察せられている以上、マッキントッシュ子爵は二流の貴族だって事かな。





 


 


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