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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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御領主様との遭遇 4

 臨時で置かれた踏み台を、あたしの上等な靴が踏む。この靴も、奥様とドリーさんが結託して、あたしに押しつけた物だ。なんちゃってマリアをするのに、貧相な靴を履いているわけにも行かないから、新調してくださった物だ。

 あたしとしては、マリアが履いていたお古の靴でも良かったのに。一寸足の形が違うから、靴職人を呼んで、足の形を図って、足形を作って作らした物だ。此れはあとで聞いたのだけど、この靴を作るだけで、あたしの普段着が五着は買えるのにビックリした。

 兎に角ドリーさんと奥様の様子が、ここの所おかしい。絶対使用人に対する態度じゃないと思う。

 そんなことを遣っているのを知った、マリアが奥様に抗議して、同じドレスと靴を新調していたのには引いてしまった。だって、マリアがドレスを着たまま、弓を引くようなことも、野山を駆けまわるようなこともないはずなのに、遠目では見分けが付かないような成りに成っていたからね。

 この靴は、結構お気に入りである。見た目は可憐な造りになっているけれど、良い革を使っているせいか、動きやすく走りやすい。普段使いの靴より、丈夫に出来ているし、比較的軽い。流石に屋根の上を駆け回るのには、不向きな代物だけど、結構汎用性もあると思う。

 この靴を履いて、森の中に分け入ろうとは思わないけれど。万が一の時には、裸足にならなくてもやれそうな気がするほどだ。

 レイに誘われるようにして、あたしは堅く踏みしめられた、土の上に煽り立った。彼の掌の温もりが、あたしの右手の先から伝わってくる。一寸汗の匂いが、気にはなるけれど。そういった事は仕方が無いことだ。何より馬車に乗り込んでいない人達は、歩いていたのだから。


「ありがとう。如何したのかしら」


 レイにマリアの口まねで尋ねる。此所に居るのは、あくまでもマリア・ド・デニム伯爵令嬢なのだから、部外者がいるときは、成るべく地を出さないようにしないといけない。あとで、きっと皆と笑うんだろうな。


「お迎えの私兵達が来たみたいです。ジム・アップル隊長はその対応に向かったようです」

と、レイがあたしの問いに答えた。

 判りきっていることだけれど、ここから街までそんなに距離はない。その上、この通りは主要街道になっている。危険なこと何て、有るはずが無い。それでも、お迎えを出したって事は、何かあるのだろうか。

 確か奥様がお尋ねになったときは、こう言った物々しい出迎えなんか無かったはずだから。あっちの方が、あたしなんかより重要で、気を遣わなければ行けない相手だと思うんだよね。何しろ、あっちはマルーン邦の盟主夫婦の遠征隊だったのだから。

 何しろこの遠征隊の中で、一番位の高い人って言うと、男爵令嬢である侍女のジェシカ・ハウスマンさんだしね。とは言っても、名目上はこの隊はマリア・ド・デニム伯爵令嬢の遠征隊だし。奥様達とは違って、金貨の入った箱を持っているから、其れなりには気遣ってくれているのかも知れない。なんと言っても、お金様は大事だから。

 側に近寄ってきた、ジェシカ・ハウスマンさんが、あたしの肩に手を置いた。一寸怖い視線を投げかけてくる。此所に居るのは、あたしの事情を知っている人間しか居ないから、良いのかも知れないけれど。マリアの奴に、こんな視線を向けたら、怒り出すかも知れないな。

 マリアのトラウマは、未だに消えないで居るから。中々人と、旨くコミュニケーションをつ取る事が出来なくなっている。その割には、あたしに対しては言い放題なんだけれどもね。何処かで、あたしの事を信頼してくれているのかも知れないね。



 

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