そして、ナーラダ村へ 4
このリントンさんは、今回馬車の中で退屈しないように、一冊の書類を読んでおくように言われている。あたしの手を掲げ持つ反対の手には、その分厚い書類の束が抱えられている。退屈はしないだろうけれど、あれを読むのに、馬車の中だと、車酔いしそうで勘弁して欲しい。
いったいこの人達は、あたしに何をさせたいんだろうか。本物のマリアなら、文句の一つも言い出す量だ。
そう言う物が必要なら、お出かけの前に読むように、あたしに言いつければ良いのに。そうすれば、大手を振ってどこぞでゆっくり読書できるから、助かるんだけどね。
こうして出掛けることが出来るまで、結構忙しくメイドの仕事を為ながら、お出かけの支度をする。其れも、成るべく誰にも気付かれることなく。
メイドの仕事だけでも、結構ハードなのに。マリア・ド・デニム伯爵令嬢のお出かけの準備。其れだけではない、諸々の世話も含まれている。
子爵領から連れてきた、カナハのサウラの面倒を見なければならなくて、目が回りそうな忙しさだった。此れも自業自得なんだけれど。
何故か昔から、こうやって面倒見なければならない人間が、増え続けてくる。其れを遣っちゃうから、行けないんだと思うのだけれど。此れも性分と諦めるしかない。
「姫様、此れから赴く村々を統治している二人の子爵を宜しくお願いします。此方の方でも、何人か向かわせますが、貴女の裁量に期待しています」
と、リントンさんが囁く。
「どういう事?」
「此れは貴女の居た、ナーラダ村だけがいち早く復興を遂げ。他の村々の復興処か、運河の側に有る街ですら、未だに元通りには成っておりません。少し、彼らに姫様から、お叱りを頂ければと思っている次第です」
うわぁ。勘弁して。
あたしは普通に、なんちゃってマリアをしているだけの、平民なんだよ。其れなのに、何でそんなこと為なきゃ行けないの。面倒くて仕方がないんですけど。
「あの……。其れはこの間、奥様が為さっていたのではないですか」
「中々上手く出来なかったようです。何よりも、一緒に行った伯爵様がかなり重荷になっていたようですから」
「はぁ」
「それに、貴女の持っている知恵を、少々拝借したいとも思っているのです。なにとぞ宜しくお願いします」
実にスマートなエスコートをしながら、あたしに無理難題を申しつけてくる。この間もそうだったけれど。この男は何を考えているのだろう
貴族としての教育は受けていないし。たんなる田舎育ちのメイドさんなんだ。そう言うあたしが、領地を守ることをしている貴族様に何か、言って上げられるようなことがあるのだろうか。彼の悪役令嬢マリアなら、きっと平気何だろうけれど。
中身は、単なる不良少女だからね。どうせいって言うんだ。
取りあえず、適当にあしらって、過ごせば何とかなるかな。単なる小娘の言うことなんか、きっと聞いたりしないだろうし。
あたしの目的は、兎に角彼の気の毒な家族をナーラダ村に、移住させることが出来ればいいんだし。其れだけなら、きっと何の問題も無く出来るだろう。




