そして、ナーラダ村へ 3
でかいラッパの音が、決められたリズムと音階で、辺りを威圧するように響き渡る。こう言ったセレモニーは、此れまで何回か経験している。直近では、デニム夫妻の視察旅行の出発時に、こうやってセレモニーを執り行ったからね。
その時は、あたしは見習いメイドとして、裏方の仕事を為ていた。実際に目撃するのは、今回が初めてになる。
あたしとしては恥ずかしくて仕方がない。こんなにど派手にお出かけを皆に、知らせなくても良いと思うのだけれど。リントンさんに言わせれば、こう言う民のためにする行動は、出来るだけ知らせておいた方が良いのだそうだ。
確かに、此所にはネットもテレビですらないから、せいぜいが広報官による告知くらいだろうか。其れだって、一般人の識字率が低いから、役人による口頭に、頼るしかなかった。
良いことを遣るにしても、其れを知らせなければ、遣っているって思って貰えないって訳よね。こう言う広報活動は、領主様にとって、重要なことなのかも知れないね。そう言えば、昔もそう言った広報活動は其れこそ頻繁に為ていたっけ。あたしは興味がなかったから、あんまり記憶にないんだけれどねぇ。
実際生活が成り立たなくなったときに、その時の首長が適当かましていたら、革命が起きて。其れこそ酷いことに成ったりするからね。こう言った判りやすい宣伝は欠かせないんだろう。ただ、こう言った宣伝活動にあたしが、関わることに成るなんて、思いもしなかった。まあ、マリア・ド・デニム伯爵令嬢は結構べっぴんさんだから、其れなりに映得るものなのかも知れないね。
乙女ゲームさくらいろのきみに・・・良く似た世界に、転生してしまったって気付いたときに。マリアのことを助ければ、万事上手く行くと思っちまったのは失敗だった。
結構色々と、問題を抱えていたんだ。悪役令嬢マリアの行いが、統べての原因でもなくて、色んな事が重なって、お隣さんが攻めてきたって訳だな。その上、この邦を統治している、デニム家の私兵団が簡単に瓦解してしまい。王都まで攻め上がってきた。
あたしの見立てが正しいとは思わないよ。それでも、今のデニム家の私兵団は結構強い。その上、この間の騒ぎで知ったんだけれど。あのサーコートを着た、奥様が出陣するなら、何の広報をしなくても、義勇軍が立ち上がるみたいだから、そう簡単に負けたりしないと思う。
そんなことを考えながら、あたしはすました顔を作って、結構立派な馬車の前まで進む。あたしの左手を乗せて、これまたすました顔のリントンさんが足を進ませている。
実はこのエスコート役に関しては、何人か手を上げる奴がいてね。其奴らを、このリントンさんの迫力のある笑い顔で、蹴散らして今に至るって訳。あたしとしては、父ちゃんの方が良かったんだけど。これまた仕方がない。
今の父ちゃんの立場からしたら、マリア・ド・デニム伯爵令嬢のエスコートなんかできない立場らしくて、いわゆる御嬢様の手に触れる権利は、スパイの親玉の物に成った。何だかなー。




