そして、ナーラダ村へ 2
早朝の御屋敷の庭先で、結構な数の遠征隊の出発セレモニーが開かれている。あたし達を送り出すために、大々的に執り行うなんて、一寸大袈裟すぎない。
あたしは、彼の家族を連れてひっそりと出掛けたいと思っていたんだけれど。其れは適わなかった。何しろ、此れはマリア・ド・デニム伯爵令嬢の初めてのお使い。いや、大事な公務なのだから。如何したって、政治的な意味合いがあることは仕方がないのかも知れない。
デニム家は民の困窮に対して、決して放ってはおかない。その事を、絶えず発信し続ける。そういった事が必要なんだそうだ。因みに、此れは父ちゃんに聞いた話だ。
大きくて豪華なエントランスをあたしと、マリアが並んで歩く。マリアの格好は、新調されたメイド服を着ている。彼女の表情は、何時もより華やいでいるように見える。単純に面白がっているのだろう。
このメイド服に関しては、マリアの我儘が通った証である。あたしをお見送りするために、なんちゃってナーラダのリコが必要だって言い張ったんだ。あたしが出掛けた後には、元に戻るんだから、可笑しな話になると思うんだけど。その辺りはいいんだろうか。
あたしの目の前には、桜色のドレスに緑色の上着を合わせている、奥様の背中が見えている。背筋もピンとしていて、一寸格好が良い。こうして身近で見ると、ヒップラインが綺麗で。女としては、一寸憧れてしまう。
背中って、自分では見えないからさ。こういった所に、普段の生活が見えてくるもんなんだ。かなり鍛えているんじゃないかと思う。
エントランスに入ると、直ぐ左手にはメイド服を着込んだドリーさんが待っている。彼女を支えるようにして、メイドのサリーさんが立っていた。刺されてから、大夫回復したとはいえ。一時期は生死の境をさまよっていたのである。未だに、メイドの補助を必要としている。
車いすでもあれば、それに座らせておきたいくらいだ。何しろ、この世界の医療技術はかなり遅れているから、如何しても回復は遅れがちになってしまう。
サリーさんは、あたしと一緒に馬車に乗り込む算段になっている。セレモニーの間如何するつもりなんだろう。椅子でも用意してあげた方が良い気がする。別にお見送りに出てこなくても良いのに。
右側にはリントンさんが、何時もより良い執事服を着込んで立っていた。彼の左後ろには、文官の服を着込んだ、レイがニコニコ笑いながら、あたしにウインクをする。
「リコ。今の貴女は私の名代として、村の支援に向かうのです。その事は理解していますね」
前を向いたまま、奥様が言ってくる。一寸聞き取りづらく感じる。
「はい」
こう答えるしかないよね。そんな大事を押しつけられても、なんちゃってマリアを遣るだけでも、結構しんどいのに。だいたい、そう言った命令権だってないと思うのに。
「その辺りは心配することではないでしょう。何より、姫は貴女にそっくりなのですから」
と、リントンさんが発言してくる。
なんか、怪物くんとの遭遇以来、リントンさんの態度がおかしくなっているのよね。もしかして、一寸行かれてしまったんじゃないかと、あたしは思っている。
マリアが、あたしの横でクスクス笑った。
「あたしのドッペルゲンガーですもの、木賃と仕事を熟して帰ってくるわよね」




