そして、ナーラダ村へ
デニム子爵の砦での、なんちゃってマリアの仕事を終えて、二週間がたった頃。ナーラダ村へ向けて、出立する遠征隊の中枢となる馬車に、あたしは旅に出るために、比較的動きやすい造りのドレスを着こなさなければならなかった。
今あたしが着ているのは、マリアの物ではない。ぶっちゃけあたし用に、奥様が仕立てさせた物だ。見た目は、普通にドレスに見えなくもないのだけれど。実は、大変動きやすく出来ている。
しかも見ようによっては、庶民の女が来ているような、着やすく脱ぎやすい。あたしみたいながさつな人間にとっては、大変有難い。其れと、此れ、何カ所かボタンを外すと、その気になれば強弓を引くことも出来る。
この服を着させられたとき、試しに此れを着たまま、強弓を引いてみたんだけど。何処も邪魔にならない。着た感じ、お仕着せのメイド服より着やすいかも知れない。
ただ、少し気になることがあるんだけど。この服を着て奥様とドリーさんの前に出たとき、この二人がお互いにうなずき合っていたんだよね。此れって、もしかして、この間、意味も解らないで、着た奥様のサーコートみたいな代物じゃないだろうな。
あたしゃ嫌だよ。あたしの後を付いてくる、図体のでかいおっさん達に囲まれるなんてね。
因みに、あたしが乗る予定の馬車は、この間奥様とディーン・デニム子爵の砦に、向かったときに使っていた。四頭立ての立派な馬車だ。なんちゃってマリアをするんだから、この辺りは当然なんだろうけれど。
今回の遠征隊の規模は、デニム伯爵夫婦による視察旅行より規模が大きいような気がする。気のせいかも知れないけれど。なんか、奥様もリントンさんも取っても気合いが入ってたんだよね。
今回の旅の護衛役には、父ちゃんは居ない。その代わり、護衛部隊の指揮を執るのは、チッタの処の隊長さんが付くらしい。当然。護衛はチッタとその仲間達十人だ。
あたしの身の回りの世話には、ベテランメイドのサリーさんが付いて来てくれることになっている。其れと、侍女としてはジェシカ・ハウスマンさんが付いてくる。
其れと何故か文官枠として、レイの奴が隊の中に紛れ込んでいる。元々、レイは王族としての教育を受けているから、文官じみたことも出来るし。腕も結構立つから、護衛役としては使えるのかも知れないけれど。
ちゃんとした、本物の文官も用意して貰いたいような気がする。それから、あたしが送り届けたいと願っている人達は、あたしの側仕えの名目で同道することになっている。あたしは、此れはかなり苦しいんじゃないかとは思うけど。
マリアが、ナーラダ村に向かうのには、正式な目的が掲げられている。未だに、復興が芳しくない、運河の側にある村々に対する援助と言うことに成っているんだ。
進まない復興に、奥様が焦れてきているから、取り急ぎ復興させるようにって。親書とそれに伴う、金銭的な援助を持って行くって言う。いわゆる、マリア・ド・デニム伯爵令嬢の初めてのお使いって言うわけだ。
マリアの代わりに公務を熟し。あたしの遣りたい、彼の家族を村まで送り届けるって言うわけ。何だかあたし良いようにこき使われていない。
もしかして、結構危ないかも知れないからさ。父ちゃんを連れて行きたいんだけれども。其れについては、奥様に断られてしまった。二人そろって、逃げ出されたら困るって事らしい。




