奥様からの提案 6
溜息が、あたしの肺の奥底から漏れる。何処かのラノベの主人公のように、きりきりと問題を解決す事なんて出来ない。こう言った難しいことを、簡単に解決できれば、気持ちいいんだろうけれど。
あっちの世界でも、あんまり優秀でもなかった、あたしに出来ることなんか限りが有る。せいぜい村を少しだけ良くすることぐらいだ。
あたしの事を見詰めている、奥様の視線が痛い。この人は何を考えているのだろう。
此所はゲームの中の世界じゃない。其れは判っている、此所に生きている人間は、それぞれ思惑があって行動するから、結構違ってしまうもんなんだろう。
乙女ゲームさくらいろのきみに・・・が始まってもいないのに、何でこんなに難しい事になっちゃったんだろう。マリアを助けたことで、少なくとも王国が無くなるような、とんでもない事件は起きなくなると、単純に思っていたんだけど。
其れだけでは、何も変わらないのかも知れない。いきなりマリアを助けたから、別の流れが出来ちまって、今のあたしが何とかしなければならないって訳だ。
マリアを殺して、あたしが入れ替わるなんて事は、絶対に出来ないことだから。彼女を助けたことは後悔していないけれどもね。
「リコ、私の提案はかなり、貴女にとって、良いお話だと思いますけれど」
黙り込んで、しまったあたしの事を気遣うように、言葉を掛けてくる。使用人に対する話し方でもなくて、どちらかと言えばマリアに話しかけるときのように、優しい声音だった。
帰りの道程で、奥様と話す機会は此れが最期になるかも知れない。なるべく早く、彼の家族を村に移住させたい。何時自警団の若い衆に、見つかるか判らないのだから。
「はい。承りました。誠心誠意努力させていただきます」
と、あたしは頭を下げながら、奥様に応えていた。
奥様の小さい笑いが、あたしの耳朶を打つ。彼女はどんな顔をして、あたしの事を見ているんだろう。第三者の視線が此所に有れば良いのに。一寸だけこの場面のスチルを見てみたいって思った。
あたしとしてではなく。マリアとして村へ行く。それでも、ナーラダ村へ帰れるって言うのは、一寸だけ心が浮き浮きしてしまうことを如何することも出来なかった。
何故か奥様の溜息が聞こえたような気がした。




