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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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復旧工事です。 2

 崩壊した堤防の復旧工事は、第二次救援部隊の兵士さんと頑健な村の男衆の協力の下、丸一日を掛けても、終わる事は無かった。それでも一日で、少なくとも水が溢れ出す事は無い状態まで、たどり着くことが出来た。銃器を使わないでやったにしては、結構進んだだろうか。あたは更に土嚢袋を増やすだけで、明日にはしばらく安心できる状況にはなるだろう。

 用意して水と塩のおかげで、日照神に取憑かれる者もなく。工事は順調に進んでいる。桶に水を溜めて置いて、柄杓で各自水を飲むようにしただけで、ずいぶん違う。塩は皿に岩塩を砕いた物を乗せて、皆に勝手に舐めるように言っただけ。親切じゃ無いのは重々解っている。此れが精一杯だった。

 あたしは塩の必要性に気付かなかった。作業が始まってから、その事に気がついたので、前世の記憶があんまり役に立っていない。まだ岩塩は村長さんが持っていたんで、持ち出して貰えたので良かった。

 今回のことを、マリア・ド・デニム伯爵令嬢に言って、マニュアル化して貰った方が良いかもしれない。こんな事、経験を積んだ中の人ならもう少し上手くやるのだろう。ここへ来ての熱中症を思い出したのは、あたしにしては良かったと思う。土嚢で流れ出す水を一時的にでも、止めることが出来れば、水が引いてくるだろうとは思って、一生懸命奥様にプレゼンした。それだけしか考えていなかったんで、他のことまでは思いつかなかった。

 前世でのあたしは、学校の成績は後ろから数えた方が早かったんだから、当然と言えば当然かな。それは良いわけにしか成らないけれど、少しは役に立っていると思いたい。出なかったら、マリア・ド・デニム伯爵令嬢のスペアでしか無い訳で、何だか申し訳なくなってしまう。

 今日の仕事が終わって、皆が河川敷から撤収を始めているのを眺めながら、立ち尽くしているあたしに父ちゃんが、声を掛けてくる。上半身裸の父ちゃん胸板は厚くて逞しい。

「さて、かえって飯にするぞ」

 父ちゃんのぶっきらぼうな物言いに、少しあたしは苦笑を浮かべる。少し変な表情をしていたのか、心配して声を掛けてきてくれたのだ。

 なんだかんだ言っても、この人はあたしの親なのだ。不器用で強面な人だけれど、亡くなった母さんだけを愛し続けていた人。失ったときに壊れてしまいそうになった人である。その時に、前世の記憶を思い出すことが出来たから、あたしは父ちゃんを支えることが出来た。



読んでくれておりがとう。

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