奥様からの提案
馬車の窓から見える景色は、そこらの息を掻き集めて、炉をこしらえる兵隊さんの姿が見える。因みに、父ちゃんは馬車の御者席で、見張りをしている。飯の用意なんかは、小隊の連中なら、お手の物なんだよね。隊長が出張るようなことでもない。
たぶん、窓から見えないところの下草を刈っている連中もいるんだろう。ある程度下草を刈って、安全を確保しておかないと、ヤバいハプニングが起こる可能性もあるからね。
大夫暖かくなってきているから、下草だって青く力強くなってきている。刈っておかないと、蛇なんかもいたりするし。危険は其れだけでも無いから、本当に気を付けないとイケない。
実は下草を刈る場所としては、メイドさん達がお花摘みをする場所が、真っ先に刈られる場所なんだ。意外かも知れないけれど、以前あたしが父ちゃんに話したことを、憶えていて其れを実戦してくれている。本当に、父ちゃんは優しくて気が利いていると思うよ。何処かの屑親父とは偉い違いだと思う。
そういった事に気が付かない人間は、こっちにも居るし、あっちにもいた。気が利かない人は、だいたいがもてない。それでも、お顔が綺麗なら、其れなりにもてるけれど。だいたい長続きしない。だから、気が利かない上にお金も持っていないと、先ず誰にも相手して貰えないもんだ。
そう言う意味では、父ちゃんは若い頃はモテモテだったんじゃないかな。だから、奥様とも付き合っていたんだろう。
正直、奥様には同情してしまう。だって、いい男を逃して、あんな屑と結婚為なければならなかったんだから。自分と血が繋がっている男の事を屑呼ばわりなんて、一寸酷いかも知れないけれど。此奴がやっていることを、知っていると、屑としか呼ぶことが出来ないんだよね。
何よりも、悪役令嬢マリアを裏切って、悲惨な結末を迎えさせたのは、彼奴だったから。それに、彼奴には王都に何人も、現地妻がいるし。当然子供だって何人も居る。
カナハのサウラみたいに、何の面倒も見ていない子供は、流石に少ないらしいけれど。後の始末は如何するつもりでいるんだろうと思うよ。
因みに、この国では奥さんが認めれば、側室は認められている。其れも、奥さんが認めればでしか無いのだけれど。奥様は、側室は認めていなかったから、つまり全てのお相手は、妾って事に成る。
此れは奥様はきっと知っているだろうけれど。その妾の人達を面倒見ているらしい。あたしが遊んでいた、乙女ゲームさくらいろのきみに・・・の中で、そう言った生々しい表現こそ無かったけれど。それらしい人物は絡んできている。
遊んでいた頃は気が付かなかったんだけど。今考えると、何とはなく臭わせていた気がしているんだ。
だいたい悪役令嬢マリアが、あんなに成ったのは、二人の父親が主な原因だったと思っているんだ。今のあたしに言わせれば、悪役令嬢マリアは結構なファザコンだったし。色んな意味で、愛に飢えていたみたいだからね。
その辺りに関しては、あたしもあんまり言えないのだけれど。何しろ、あんなに成ったのも、何処か愛が欲しかったのかも知れないと思うからね。
「結論からお話しするわね。貴女はマリアとして、ナーラダ村へあの人達を送り届けてきなさい。そして、必ず戻ってくること。約束が出来るなら、援助して差し上げます」
「え」
奥様の言葉が一瞬、理解できなかった。
「どうせ、貴女は無理遣りにでも、何とかするでしょう。私なら、其れこそ跳びだして行ってしまうでしょうから。それなら、貴女にはマリアの評価を積み上げるのに、協力して貰った方が良い物ね」
奥様がニコニコしなが言った。
あたしの此れまでの、気苦労は何だったんだろう。




