試験の結果発表 7
馬車の外から、メイドさん達の労働歌が聞こえてくる。定番の騎士とお姫様のロマンスを謳った歌だ。結構あたしも歌う曲で、一緒に歌いたいけれど。こんな状況じゃ無理よね。
あたしの前には、困った顔の奥様が、窓の外を眺めている。何を考えているのか解らないもんだから、あたしったらかなり緊張してきた。取りあえず聞く体制を整えるために、成るべく良い姿勢を取る。
こっちに転生してからと言う者、あたしはかなり良い子に為て居ると思う。勿論かなりやらかしてはいても、見た目は礼儀正しい態度だって取れるからね。昔のあたしは、わざと悪い子を演じていたような事もあったから、意外に居心地が良いからね。
正直此所の生活は、決して便利でもないし。たぶん、転生ではなくて転移だったら、一週間も持たなかったかも知れない。赤ちゃんの頃から、此所の空気になれていたから、其れほどしんどくも感じなかったからね。
トイレもそうだし、食事だって殆どが煮込み料理の上、香辛料なんか何もなかったし。味付けは基本、塩だけだったからね。旨味調味料なんか、何一つ無かった。だいたい、主食になるパンだって、製粉技術が大した事がないせいか、時々石が入っていたりするんだ。
此れは、領都に来てからも、パンの中に石が混じっていることがある。勿論、村の頃と比べれば、かなり減ってはいるけどね。劇的に、パンの味は向上している。でも、そう言った事故は時々あるんだ。それでも、マリアなんかは何の違和感も感じないのか、時折ハンケチに包んで、テーブルの上に置いているのを知っている。
良い匂いが、馬車の中にまで入ってきた頃。奥様が口を開いた。
「では試験の結果は、残念と言うことに成ります。貴女がマリアでは無いと言うことは、簡単に見抜かれてしまいましたよ。元々、無理なことだと言うことは判っていましたが、これほど簡単に墓穴を掘るとは思いませんでした」
困った顔の奥様が、あたしの唇を見詰めながら言ってくる。矢っ張り、彼の騒ぎがイケなかったのだろうか。それなら、彼奴らには言い含めておけば良かった。何だったら、父ちゃんに命令を出しておいて貰えば良かった。
さて、どうしようか。始めの計画通り、偽の書類を使って、ナーラダ村に移住させる手はずを整えるしかないか。となると、父ちゃんに頼んで、小隊の誰かに付いていって貰うようにするか。街の衆の中に、村までついて行ってくれるような奇特な人を見付けないといけない。
旅費をどう工面しようか。あれだけの人数を送り出すのには、一寸あたしの懐事情から、無理なんだよね。普通のメイドより、給金の良いあたしでも、簡単には出せない金額なんだ。マリアに頼めば何とかなるかも知れないけれど、其れは気が進まないし。
あたしは、今回のミッションコンプリートに成らなかったことを受けて、次にどう動こうかと考え出す。デニム家の資金で、あの人達の移住計画を立てよう何て、虫のいい話だった。自警団の連中のやりようは、一寸頂けないから、ガチンコでぶつかっても良いこと無いし。取りあえず逃がす方が良いと思ったんだ。
「貴女、また良からぬ事を考えているのね」
と、奥様が言ってくる。少し目元が、笑っているように見える。この人は何を考えているのだろうか。




