1.あれから
フォリシス公爵家は、アルミシア王国の貴族である。
色々とあって、私はその家の養子となった。そこで私には兄妹ができた。
一人っ子だった私にとって、それは嬉しいことだったけれど、一つ問題というか、兄妹であることに不都合はあった。私は義兄であるリクルドお兄様に、恋心を抱いてしまったのだ。
「あれに恋心を抱くなんて、お姉様はどうかしていますよ?」
「……レティ? そんな言い方はないんじゃないかな?」
「いえいえ、あれは邪知暴虐の極みみたいな人じゃないですか。私だったら、もっと優しい王子様とかそういう人がいいと思いますけど」
義妹のレティは、リクルドお兄様に対して手厳しい評価を下していた。
実の妹である彼女からすれば、リクルドお兄様に恋心を抱くなどということはもちろんあり得ないことだろう。そう思うのは、仕方ないことだ。
「いや、実の妹だからとか、そういうことではないんですよ? 私は客観的に事実を述べているだけです。あの人は横暴じゃないですか」
「いや、リクルドお兄様はお優しい人だよ。それに客観的な事実を述べるならば、リクルドお兄様は社交界でも人気が高い……」
「……え? あのお姉様?」
レティの言葉に、私は思わず反論した。そして少し悲しくなった。リクルドお兄様の人気の高さというものは、私にとっては良いものではないからだ。
考えてみれば、私の思いが成就することなんてないのかもしれない。リクルドお兄様は、血の繋がりがないとはいえ兄だ。その時点で壁がある。
それに加えて、私は別に容姿に秀でている訳でもない。こんな私では、リクルドお兄様に釣り合うはずもない。
「私じゃあ、リクルドお兄様の妻なんて無理だよね……」
「どうしてそうなったのかはわかりませんが、そんなことはありませんよ。ルリアお姉様は、素晴らしい人です。あのお兄様には相応しくないくらいの人ですよ。妻にしたい公爵令嬢ランキングがあれば、お姉様は上位です」
「そ、それはないと思うけど。でも褒めてくれるのは嬉しいな」
「ほら、笑顔もこんなに麗しいじゃないですか……ちっ、これがあのお兄様の物になるとか、胸糞悪くなりますね、羨まし過ぎて」
レティは私のことを褒めてくれるけれど、それこそ本当にお世辞でしかないといえる。
公爵家に養子として取られた私は、社交界で快く思われていない。それだけは確実だ。実際に悪口を言われたことだってある。
そう考えると、私がお兄様と結ばれることなんて無理かもしれない。フォリシス公爵家の社交界における立場を益々悪くするだけだろうし。
「大体、お姉様がそんな風に悩むのはあのお兄様が優柔不断だからじゃないですかぁ。もう告白もした訳ですし、これってキープってやつですよねぇ? 悪い男だわ~」
「そ、そういう言い方は良くないよ。お兄様は断って、その上で私が諦めていないだけだし……」
「諦めてないんですね?」
「それは……まあ、そうだね」
レティの言葉に、私はゆっくりと頷く。確かに今まで色々と言ったが、私はまだ諦められていない。いつまでもお兄様に片思いしている。
諦める理由なんて、いくらでもあるというのにこれなのだから、私は往生際が悪いということかもしれない。
でもやっぱり、諦める気にはなれなかった。お兄様との未来、私はそれを想像せずにはいられない。
「まあ、あのスカポンタンのことはとりあえず置いておきましょうよ。あんなのことで悩むよりも、可愛い妹を甘やかす方が楽しいとは思いませんか?」
「えっと、確かに悩むよりはレティとの時間を楽しむ方が有意義かな。ごめんね、なんだか愚痴を聞かせることになっちゃって」
「いえいえ、それは別に構いませんよ? 私にできることと言えば、これくらいですからね。まあ、私くらい天性の聞き上手は中々いませんからね」
「そうだね、レティはすごいよ」
義妹であるレティは、神童と呼ばれる程に頭脳明晰だ。だからだろうか、私の話もきちんと聞いてくれて、その上で前向きにさせてくれる。
お兄様と出会えたことと同じくらい、この妹を得られたことは幸福だといえる。本当に私には、良い縁があったものだ。
もしもフォリシス公爵家に引き取られていなければ、どうなっていたことか。いやそんなことを考えるのはやめよう。今前を向くと決めたばかりなのだし。
「そうですね、私はすごいんですよ。天才美少女レティと呼んでください。崇めて讃えてもいいんですよ? あ、いや、お姉様にそうしてもらうのは少し申し訳ないですから、やっぱりいいですけど……」
「天才美少女レティ様……か」
「……え?」
談笑していた私達は、聞こえてきた声に少し驚いた。
私とレティは、ゆっくりと声がした方向に視線を向ける。するとそこには、私達の兄であるリクルドお兄様が立っていた。
それからレティは、体の向きを私の方に変える。助けを求められていることはわかった。だから私も、手を伸ばそうと思ったけれど。
「……我が妹よ。確かにお前は優秀だ。しかし、そのような高慢な発言はいただけないな」
「お、お兄様、肩を持たないでくださいよぉ」
「お前はもう少し謙虚さというものを身に着けるべきだな。所で、先日授業をサボった件についてだが、何か弁明はあるか?」
「げ? その話か……いえ、あれは天気も良かったですし、お昼寝していて」
「学園長の妹が、そのような理由で授業をサボっていいと思っているのか?」
「……お姉様、助けてください」
「ごめん、レティ。サボった件で怒られるのは、もう仕方ないことだと思う」
どうやらお兄様は、先日あったレティのサボりについて問いただしに来たようだった。
その件については、私の方でも注意したけれど、あまり効果はなかったような気がしている。
だから私は今回、レティを助けないことにした。とりあえずお兄様に灸をすえてもらう方がいいだろう。今後のためにも。
「もう、どうしてこんなことに……」
「お前が何年経っても変わらないからだ。いい加減、貴族としての自覚を持ってもらおうか」
「嫌だぁー! これからも私は怠惰な生活を~!」




