太郎君と花子さんがクソゲーとして有名な「セレブ三十郎白熱決闘」で対決します
1.花子に勝負を挑まれる
「太郎!セレブ三十郎白熱決闘で勝負よ!」
「花子、なんで勝手に」
この短パンタンクトップで肩までかかる髪をなびかせて入ってきた女は花子。ゲーム好きの俺にかまってくれるありがたいやつだが、今日は様子がおかしい。
「おばさまに許可はもらったわ。それよりあんたが以前にいつか欲しいと言ってたこのソフトを買ってきたの」
彼女が持ってるソフト「セレブ三十郎白熱決闘」はクソゲーとして有名なミニゲーム集。生産数が少なすぎたのか、クソゲーとして有名になってからあっという間にプレミアがついたゲームだ。
「ミニゲームを乱数で3つ選び、それぞれ対戦して勝ち越したほうが相手になんでも命令できる、ってのはどう?ちなみにあたしは家でやりこんできたから。これくらい当然のハンデよね」
「花京院、貴様このゲームをやりこんでいるな?」
「はいはい、ちょっと待っててね」
俺の渾身のギャグはだいたいスルーされるのはなぜなのか、スマホで乱数を用意して対戦するゲームを決め始めた。
最初のゲームはパズルゲームのプヨリスに決まった。
2.パズルゲーム対決
プヨリスはぷよぷよ+テトリスというまったく新しくかつ懐かしさも感じる、フロンティアかつノスタルジックゲームらしい。
「行くぞ行くぞ行くぞ太郎、今こそ因縁の決着を!」
3本勝負なのでまだそれを言うのは早いが、とにかく始まった。
さっと見たヘルプによると、テトリスサイズのブロックがぷよぷよのように複数色組み合わさって落ちてきて、ある程度の色を直線でつなげるというまんまな融合ゲーだ。
そしてクソゲーとして有名なだけあって、操作性が最悪だ。ブロックの向きを90度変えれるが、反応がワンテンポ遅れて不安になるし、複数回回すのはあまりに時間がかかる。ゆっくり狙いを定めたいところだが、猛烈なスピードで落ちていき的も定まらない。よほど頑張ればブロックを消すことはできそうだが、連鎖はとてもできそうにない。ブロックを消すと相手を軽く妨害できるようだが、横でぴょんぴょん豊満な体をゆらしてプレイしてる花子からの攻撃は微々たるもので、むしろブロックを消すためにいらないブロックが無造作に積まれてもう死にやしないかこちらがヒヤヒヤしてしまう。
そんなこんなで俺はコマを消すのをあきらめ、可能な限りゆっくり操作し平坦に積み上げて相手の自滅を待つことにした。
クソゲーにありがちな死にゲー・脱落ゲーなので、ただただ延命するのが勝利条件だったのだ。推奨されたブロックの消し合いなどではなく、そろぞれが勝てる最適解や抜け道を探すのが破天荒なゲームの楽しみ方だと俺は思っている。
「なんで、なんで一度二度しかブロック消せてないあんたに負けちゃうの?」
次の試合は2Dシューティングゲームだ。
3.共闘するゲーム
「これは二人プレイがおもしろいんだけど……」
手を首に回し、わきを見せて花子は言う。
あまり過酷なクソゲーが続くのも辛いので、ありがたく提案にのったが、勝負はどうなるのか。
戦闘機がUFOらしきものと戦う古き良きシューティングで、絶対避けれない方向から飛んでくる弾に二人ともよけれず自機も一つしかなく、序盤の序盤で詰んでおわってしまった。どこがおもしろいんだ。
花子いわく「2面まで進めば合体できたのに」らしいけど、そこまで行けないゲームなのでしかたがない。
4.最終戦1万ポイント
「最後は1万ポイントね!」
人間とは自身のボケは突っ込んでほしいのに、相手のギャグにはどうしてこうも残酷な対応ができるのだろうと思いつつスルーした。
最終戦は3Dシューティングで、自爆する巨大宇宙基地から敵機を倒しつつ逃げる、ファイナルラウンドにふさわしい内容だ。
「あたしが勝ったらどうしてやろうかしら」すでに勝った気でいるようだが、実際花子はゲーム下手とはいえ3Dシューティングのセンスは悪くなく、むしろ苦手な俺よりは遥かに適正がある。練習もしてきたようなので、勝てる見込みはあまりない。
案の定俺は進行具合から言うと3割くらいのところで撃墜されてしまった。もう少し体力があればカジュアルユーザーでも遊べてクソゲー呼ばわりもされなかっただろうなどと考えた。
花子の番になった。彼女は急に真面目なモードになってプレイ開始しつつ、言った。
「私の願いはね、まずおばさまは空気を読んでおでかけしてもらってるの」
「イェエエエエエ!?」
今までの謎の行動に合点がいくと同時に、叫び声をあげ、驚いた花子は壁に激突し開始直後で終わり、この3本勝負は1万1ポイント差をつけて俺が勝利した。
5.勝者の命令
「女の子に恥をかかせるんじゃないでしょうね」
仰向けに寝て、恥ずかしげにチラチラこちらを見てくる。
しかし俺にはそれに答える度胸もサービス精神も持ち合わせていない。
「「せがた三四郎真剣遊戯」で花子が勝つまで遊ぼうよ。これもクソゲーとして有名だけど、かなり遊べるのも多いし、母ちゃんもいないならゆっくりできるしね」
絶望に歪んだ花子の顔を見て、そこから目をそらし話を続けた。
「好きな子には命令なんか通さずに気持ちを伝えたいし、いっときの感情に流されずに二人で気持ちを確かめ合いたいので、もっと楽しく遊んだり美味しいものを食べたり体験を共有して、願わくばそれからお互いそういうプッ、プレイを命令しあえる関係になれたらいいなって」
「すごい早口」
彼女はその日一番の笑顔になった。