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勇者の片思い  作者: そうき
1 始まり
7/13

5.5話 夢の中で(トモカ)

トモカさんです。

「出たな、元凶」

じろり、とキツイ眼差しをトモカは目の前に現れた白い姿に向けた。

十才くらいの背丈だろうか。小さいなあ、と思う。

薄ぼけた光を纏っていて、顔が見えない。人型だっただけ良かったか?

『話す、事情」

「ああ、そう、イマサラ?おっそいわねー。・・・で、話すだけ?その前に言うことあるんじゃないの?」

『・・・・・』

手が届きそうで届かないギリギリの位置に立っている、おそらく神であろう子ども姿の生き物。

ふわふわと空中に浮かんだまま、トモカはわざとらしく足を組み替えて様子を窺う。この場の雰囲気から敵対も威圧もないだろう、と推測したのだが、さて、どうなるか。

『助けて』

「・・・無理やり拉致誘拐しといて、イマサラ?」

『ごめん、なさい』

さらりと冷たい風が通る。それは涙のように感じた。

『助けて。お願い』

はああ、と大きな安堵の溜息を吐いて、トモカはやっと睨むのを止めた。ともかくも、これで自分が理屈上、そして精神的には上位に立った。交渉は続くから気は抜けないが、まずは勝利。

「先に言って欲しかったわね、こっちの世界に有無を言わせず連れ込む前に」

目の前の相手は無言で俯いた。人っぽい仕草だなあ、と胡乱気に眺めつつ、

「まあ、いいわ。できることはするわよ。で、もちろん、援助と報酬は貰えるのよね?」

こくり、とさらにいかにも人間みたいに頷くと、その子どもは手を差し出した。光る球がその手の上に浮いている。

『武器、と、入れ物、あと、道具、いろいろ』

差し出された光る球を手に取る。光が消えて、美しい華奢なデザインの腕輪になった。

「便利グッズね、ありがとう」

早速、右腕に着けてみた。ぴたりとサイズが合い、ずり落ちることなく程よい場所で留まる。手首から指二本上の辺り。感触も意外なほど柔らかくて、着け心地はかなり良い。

「神さま特製品、ってとこか。・・・そういえば、あなたの名前は?担当は?神さまで合ってるのよね?」

まだ聞いてなかったことに気づいて質問する。

『ラーシア。光。朝。昼。夕、まで、わたしの、領域』

「なるほど。光の女神さまね・・・」

一応、様付けするくらいの礼儀は守る。力関係で言えば、圧倒的に相手が上だ。全身の感覚は目の前の存在に向かっていて、注意を逸らせない。まったく、こんな得体の知れない無茶苦茶強い存在を助けるって、どーすんの?

「それで、わたしは何をすればいいわけ?」

『わたしの、半身、夜、女神、助けて。』

「半身? 夜の女神さまね・・・」

『異界、悪魔、来た。夜、捕まった。』

「ふーん?」

首を傾げながらトモカは言われたことを確認していく。

「つまり、悪魔退治?異界の悪魔って、わたしと同じ世界から来たとか言わないわよね?」

『違う。別』

「そう、それならいいわ。気が楽で」

本気でほっとした。同じ世界から来た人・・だったら、戦いたくはない。できるだけ。自分を宥めるように髪を梳いて、話の続きを促す。

「どこにいるの?どんな奴?」

『謎。場所、謎。』

「・・・ああ、そう・・・」

なんだか一気に脱力した。謎って何?謎って!あんたが謎だよ!!

『姿、は、コレ』

人差し指でピッと横線を引く。そこに画面が現れて、黒髪の女性が黒縄に纏わりつかれている様子が映る。その黒縄の先には、

「・・・蛸?」

赤黒い肌、突き出した長い口、つるっぱげの頭、うにうにと動くたくさんの足。手は見当たらず、それに八本足じゃなくて二十本くらいはありそうな足だが、その動くさまが蛸っぽい。そして足の何本かは、夜の女神だという黒髪の女性に巻き付いて、黒い霧を吐いていた。どこから出ているのだ、あの霧は。しかし蛸は大好物なんだが、さすがにこれは食べたいとは思わないな、と目が泳ぐ。

さらに足の何本かが撓って鞭のように動き、画面がブレた。・・・どうやら、この映像はラーシアの記憶で、おそらくあの鞭のような足がラーシアに当たったのだ。

『時間、無理、後、少し』

「ああ、そう、時間制限あったのね、それはこの映像?それともここで会ってる時間?」

『両方。どちらも。回復、まだ、少ない』

「・・・あのケガね。」

先ほどの映像を思い出して、眉間に皺が寄る。位置的に右足。それに他にも敵がいたような感じだったが、どうなのだろう。もっと詳しく知りたいが、今は時間切れのようだし・・・。

「それで、人を使って呼んだわけね。召喚魔法を教えて」

『あげる、力、たくさん』

急ぐように間を置かずに言われ、再び手から光が生まれて、くるくると回りながらトモカの前に流れてくる。肌に触れるか触れないかの所で消えたが、それと同時に体の中が熱くなる。なるほど、と目を瞑って自分の変化を感じながら次から次へと入って来る光の球によって、熱が次々と生まれ高まり、全身に回るのを、まるで他人事のように観察する。

いくつ入ったのか、うっかり数え忘れていたので明確ではないが、おおよそ二十個以上はあったと思う。つまり、神さまから授与された能力が二十個以上。うん、チートだ。しっかりチートだね。これで生き残れる確率が上がったのなら、良いことだろう。そう思いたい。・・・過ぎる力は何とやら、は、ひとまず忘れておく。

『時間、終わり』

「あら、もう?」

ぱちりと目を開けて真っ直ぐにラーシアを見る。子どもの姿は、徐々に光に紛れて消えていった。


「なんだかなあ・・・」

頼りない子どもの神。助けてと言われたが、さて、あの蛸の悪魔が親玉というわけではないだろう。とっても面倒なことを押し付けられた気がする。

「あ、呼ばれた条件とか、他のみんな・・・3人のこととか、聞けなかったな。」

確認したいこと、知りたいことは山ほどあるのだが、この短い時間では知れたことは少なかった。

「帰れるかどうかも聞きはぐっちゃったなー。・・・やっぱり緊張してたか。」

ふうう、と情けない自分にしょんぼりするが、もう終わってしまったことは仕方がない。

何より神さまとの交渉事なんて初体験なのだから、上手くできなくても悪い別れ方ではなかったということで、良しとしよう。悩んだところで変わらない。

「きっと一人一人、会ってるわね。目が覚めたら、他の三人に聞いてみよう。どんな話をしたのかしらね~。」

誰かが帰れるかどうかを聞いていてくれると助かるのだが。


周囲の光がより眩しく輝きだした。そろそろ目覚めるのかもしれない。この夢の場所は居心地が良かった。やわらかな白と淡い金色の光。さわやかな空気。

「またここに来たいな。・・・もっと話を聞けるといいんだけど」

先のことはわからない。だが、生き残って、できるだけケガも病気もせず、そしてできれば帰りたい・・・から、情報はとっても大切だ。必要な情報を得るためには、手段を選ばず行動しなくては。

「あーあ。ティラミスが食べたい」

一番好きなチョコレートデザート。この世界で食べることはできるんだろうか。チーズもチョコも冷蔵庫も探さなくては。あ、あと作るための道具もか。はあ。

「無かったら自分で作るのか・・・作るしかないとか、はあ。どうすんの、わたし・・・」

帰りたい。帰りたい。帰りたい。

「帰りたいよ・・・」

ほろり、と涙が零れる。光に飲み込まれながら、体の感覚が消えていく。

・・・ああ、終わらない夢が始まる・・・・・




次はミナちゃんです。

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