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鬼怨憑―おもひつき―  作者: 立花りん
一章
1/1

※同性愛者の男性キャラが出てきますが、BL的な表現はないです。

※最初の1ページ目なので、できればもう数ページ書いた頃にまとめて読んでいただきたいです。このページだけでは全くなんなのか分からないと思います。


時代設定は現代ですが、その中で切り取られたかのように存在する"江戸"時代の面影を残したひとつの村がお話の舞台です。




――――倒れた!?




通話を切るのを忘れた(すまほ)を辛うじて袖口にしまい込み、普段住まう屋敷を飛び出した。

戸も閉めず、大きさの合わない草履で彼女の(住処)へとひた走る。……誰かのと間違えて履いてきてしまったようだ。

それほどに慌てていると言えば説明がつくだろうか。


…………とにかく慌てているのだ。



―――有り得ないことなのだ。


あのおいぼれが倒れるなど、


()()()()()()が倒れるなど、


有り得るはずがないのだ―――



彼女の(住処)に押し入る。

玄関で草履を脱ぎ捨て、散らかしたまま廊下へ進んだ。長い廊下を突っ切り、彼女が居そうな部屋の前でくるんと右に倣えをした。

襖をばたんと勢いよく開け放った。勢いそのまま怒鳴っているかのような声が出た。


「おいっ!」


「おいぼれが倒れたって本当のはな

「―――――鍋!!」




………え。




「あー……べっかむ?」

「蒸し焼きいも!!」「先程から食べ物ばっかですね」




………何この空気。


『状況分析の結果、嵌められたことが判明しました。』


いやそういう意味ではなくて。先程までの緊迫した雰囲気はどこへ行ったのだ。と言うかこんなゆるゆるした冒頭(すたあと)で良いのかこの話。





訳が分からない時はとりあえず状況把握!

部屋の様子を観察してみる。



()()()()こと真保老婆«まほろうば»は大人しく布団にすっぽり収まっている。

黙っていれば完璧な美人だ。

たゆたう漆黒の黒髪などは艶もあって非常に見た目麗しく。前かがみになる度に……はらり…っと頬の辺りに垂れる一筋など、生まれつき同性愛者の悟でも一瞬どきっとする艶やかさである。

今さりげなく告知(かみんぐあうと)というものをしてしまったように感じるのは気のせいである。


だが大人しいのは見た目だけだ。

口からは弾丸の如く勇ましい言葉が発射されている。



「だってー飯食いたいんだもん」

「お医者様に良いと言われるまで我慢してください」

「やだやだ!!今すぐ食いてぇ!!」「……貴女真白さんですか」



この阿呆なやり取りをしている、またはさせられている相手は畏«かしこ»。

淡い桃と紫白の色を僅かに湛えた鋭い髪を短めに揃え、七三分けの前髪からまるで「私は引照理(いんてり)なる者です」とでも言いたそうな切れ長の瞳が覗いている。

この状況下に於いては、普段なら真っ先に逃げ出すような種類の性格をしているのだが。面倒事をとにかく嫌い、上手いこと「誰か」を生贄にして去っていくのだ。生贄にされるのは「誰か」である、決して「悟」などとは言っていない、微塵も。


老婆の退屈しのぎに付き合ってやるのは優しさか……はたまたお小遣いを戴く為か。




もう1つ会話が聞こえてくる。



「えーめっちゃさらさらじゃんーどこでやってもらったんさ?」

「近所の床屋(へあさろん)浦松……ってとこです」

「おーやっぱりあっこ当たりだったか!繁盛しそうだとは思ってたけどなー」

「相変わらず鼻が利きますね」

「そりゃおめぇ、この俺を誰だと思ってんだ?」

「……………金の亡j「しばくぞてめぇ」



否、彼は間違いなく金の亡者である。稼«かせ»だ。

鮮やかな黄色が眩しい髪を更につやっつやに仕立てあげたある種の芸術作品のような髪が、それこそ仏茸(まつしゆるうむ)の如く顔全体をすっぽり覆っている。ここまでしっかり巻いている(かあるしている)のを見ると、毎回どうやって造型(せつと)しているのだろうと疑問が湧く。


真っ青な瞳が冷たい笑みを浮かべる。朗らかで明るい気質の稼だが、常に冷ややかな眼差しに射詰められると背筋が凍る。


しかし―――そんな詐欺師(ぺてん師)を相手取る詐欺師(ぺてん師)がもう一匹。



「あはは何本気にしてるんですか」



普段は稼と非常に仲が良ろしく、ただ時々ちょろっと殺気を出して仲良く威嚇し合う―――


もう一人の詐欺師(ぺてん師)、だが名前は清«きよ»である。

短めの癖毛で後頭部から一房まるごと飛び出して跳ね上がっているというのに、手を通せば何故かするりと指の間を流れていく。


透き通るような白い肌と映えて、毎晩墨で洗っているのかと思うほど黒い髪の間から、不自然なほど赤く光る瞳が怪しげに覗く。感情がまるで見られない瞳である。



「勿論嘘ですよ「だよなぁ弟!!流石は双子の弟!!」



通りすがる旅人なぞがこの会話を聞けば、間違いなく戦闘態勢(もおど)に入るだろう。


青い瞳と赤い瞳がぶつかり合い、絡み合い、探り合う。

緊張の一瞬。二人の周りで空気がぴんと張り詰める。その向こうでは呑気な尻とりが続いているが、こちらの二人はお構い無しに殺し合い一歩手前の状況を作り出す。


…………見ているだけで緊張してくるのである。怖がってなぞいないが、緊張してしまうのである。決して怖がってなぞいないが。


さも良からぬ事を企んでいるかのようににんまりと笑い、冷たい表情のままで清が口を開く。

真っ赤な唇が優雅に動く。



「今度一緒に行きます?」

「おっいいねそれ!久々に二人っきりで"でえと"だなっ♪」

「そっそんな…"でえと"だなんて…っ照れますわ/////」



二匹の詐欺師(ぺてん師)は先程までの殺気に満ちた瞬間なぞどこにも無かったかのように、仲の良さそうな会話を展開していく。


緊張した悟が馬鹿であった。怖がった悟が阿呆であった。認めよう。


しかしこれが奴らの会話風景であった。つまりこんな駆け引きだらけの会話は日常茶飯事なのだ。

つまり一々緊張しながら聞いていては身が持たんのだが。それはよく解っているつもりである。



ほっと胸を撫で下ろした途端

招かれざる客が飛び込んできた。



「だれかよんだー!?」



まるで絶対に制御できない銃から放たれた弾丸のように、部屋の床めがけて飛び込み(だいぶ)してきた者がいる。



「…あ゛」

「面倒臭い人が来たので引き篭もります」「えっちょ、待てよ!?俺動けないんだけど!!」



突然の訪問者に畏はさっさと自室へ退散するべく部屋を抜け出してしまった。一応床に臥せっているという設定のため動けないおいぼれが少し憐れに思えてきた。


何故ならこの弾丸は―――



しかし悟による紹介が始まる前に銃の持ち主が現れた。

……如何せん初動作が遅いので、割り込まれると勝てないのであるが。



「あっこら真白!!?」



銃の持ち主は飛び込んできた"犬"の"飼い主"でもあった。



「はーい何も無かったよーだから帰ろうねー」

「?でもさっき呼ばれて「気のせいだよーだから帰りましょうねー」

「?……解った……(しょぼん)」



犬は飼い主に首根っこを掴まれ、大人しく後ろ向きに引き摺られながら部屋から退散していった。




――――誰か突っ込んでくれ。私では追いつかない。





鬼怨憑





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