意味がわかると怖い話もどき4
思いつき。
やった!やっと手に入れた!
子供の頃から欲しかったもの!
コンビニに行っても売っていない!
スーパーに行っても売っていない!
ネットで探しても売っていない!
そう!これは非売品なのだ!
昔それの写真をネットで見つけてから、毎日それを眺めて過ごそうと決めていた。
その念願がついに叶ったのだ。
本当に偶然だった。ただふと森の中を歩きたくなっただけだったのだ。
僕は薄暗く、湿っぽい森の中を月明かりを頼りに歩いているときに、仄白く光るそれを見つけた。木からぶら下がるそれを見つけた途端に僕の心臓は激しく脈打った。感動のあまり涙が出た。気づけばズボンも濡れていた。それは僕が見てきた画像と比べても群を抜いて綺麗だった。
おそらく先ほど出来上がったばかりなのだろう、表面は陶器のように白く月光に照らされて妖しく光っていた。それにある2つの山を認めてそれが2種類あるうちの片方であるとわかった。
僕が欲しかった方だ!
型崩れも起こしていない!素晴らしい!
神様ありがとう!明日餅を持って行きます!
僕はそれを木から降ろし、周りについている邪魔なものを取り払った。
美しい!美しい!美しい!
僕はおもわずそれに触れた。手に伝わるひんやりとした感覚で間違いなくそれが僕の欲しかったものだと確信した。
嬉しさがこみ上げ、僕はそれに口づけした。
舐めた。
噛んだ。
抱きしめた。
口に含んだ。
重なった。
もはや音など聞こえなかった。
不思議と寒さも感じなかった。
脳が嬉しさに震えているのがわかった。
あぁ!素晴らしい!
あぁ!美しい!
あぁ!愛おしい!
僕は何度も絶頂を迎えた。
気づくと雨が降っていた。
それによって僕のものは流された。
僕はそれを埋めた。
誰にも取られたくなかったから。
なんせこれは非売品なのだ。
帰って車を持ってこよう。
大きな布も忘れないようにしなければ。
見咎められては大事だ。需要に対しての供給量が少なすぎる。見つかったらきっと奪われる。そんなことがあってはならない。
なんせこれは非売品なのだ。
僕は急いで家に帰った。
布を持って車を出した。
土からそれを掘り起こした。
それは変わらず美しかった。
もう一度抱きしめたくなる気持ちを抑えて布に包んだ。車までは引きずった。持ち上げるには重かった。車に押し込み、家に帰った。
玄関の扉を先に開けに行った。それから再び引きずった。周りに他の家は無い。だけども人目に気をつけた。万が一があっては困る。
なんせこれは非売品なのだ。
扉を閉めると風呂場へ運んだ。表面の土を落としたかったし、そうでなくても寒かった。
僕の感覚はいつの間にやら帰ってきていた。
勿論窓はしっかり閉めた。すりガラスだから大丈夫だろう。
風呂場ではそれに冷水をかけた。僕は寒いが仕方が無い。今はこれが大事なのだから。
それの表面を水滴が這った。僕は生唾を飲み込んだ。とうとう我慢がきかなくなった。
僕はその場でそれを汚した。
もう一度それを入念に洗うと、僕はそれを自室へ運んだ。置き場は既に決めてある。ベッドの横の直方体。あれに入れると幾らかは、それの劣化を防げるのだ。これも昔からの夢だった。大人になって家を立て、自室にそれをつけようと。それを直方体に押し込んで、蓋をしっかり閉めてしまう。そこで嬉しさがこみ上げた。漸くそれは僕だけのものになった。そんな気がして嬉しかった。
たった1つの僕のもの。
これは誰にも手に入れられない。
なんせこれは非売品なのだ。
解説
この話はお気付きの通り、死体愛好家の男が森の中で死体を見つけたという話です。勘の良い方は、『意味怖』『欲しかったものを手に入れた』と、この並びを見ただけで死体を連想したかもしれません。余りにも簡単なので『解説もいらないのでは』とか、『そもそも意味怖にせずただのホラーとして書いた方がよかったのでは』と書き終えた今となっては思うのですが、態々書き直すのも面倒なのでこのまま投稿しました。すみません。
弁解
この話を読んで『この愛犬家というやつはきっと礫死体や縊死体を見つけては裸に剥いて犯している頭のおかしな奴なんだ。』と思った方に弁解させていただきたい。
僕は別に死体が好きとかそういうことはありません。人の死体を見れば胸が悪くもなりますし、物によっては吐くでしょう。
動物のものでも同じです。猫の死体を見れば泣きますし、犬の死体を見れば発狂し、物によっては死ぬでしょう。
死に関する作品が多いのも、文章内のものであるからです。推理小説内で人が死んでも『まぁ、こいつは死にそうだったな』と思うだけですが、実際にニュースなんかでそういうものを見ると他人事ながら落ち込んでみたりもします。
ネットなんかで、他人の死を軽く扱う発言を見ると『人の命をなんだと思っているんだ!』と憤慨してみたりもします。
そんな普通の感性の持ち主なので、どうか誤解をなさらぬよう。
最後に、こんなつまらないあとがきまで読んでくださりありがとうございました。では。