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三国志遊戯  作者: 三十四
184年7月
8/14

第七話

 それから一月が経ち、集まった兵隊は一万。それを【訓練】コマンドにより練兵して、準備は整った。

 その間、劉禅が【人材探索】により、【孫子兵書】を見つけていた。


【孫子兵書】

 知略+5

 所持者に特技【虚報】【罠】を使うことが出来る。


「劉禅は本当に優秀だなあ」


 腰に手を当てて、えっへんと鼻を高くする劉禅。


「褒めるがよい。もっと褒めるがよいぞ」


 孫子兵書とは、現代世界にも伝わっている孫子の兵法書のことだ。……曹操がまとめ上げた物が、なぜここに? はゲーム的仕様だ。フリーモードは、所持武将が決まっていないアイテムを完全にランダムに配置する。


 そのおかげで、更に戦いが楽になった。


 これを、郭図に渡す。


「わ、わたくしに?」


 ちょっと驚いていた郭図は、くいっと眼鏡を上げる。


「――まあ、それ位の働きは行っておりますが」


 明らかに嬉しそうな表情ではある。


「わが軍の中で、一番頭がいいのは君だからな」


 【虚報】も【罠】も、成功するには知略の値が重要になってくる。となると、必然、誰に渡せばいいのかは自明の理だ。


「それじゃあ、えっと、始めようか」

「……本当に、袁術軍と戦端を開くというのですか?」


 郭図は半信半疑のようだった。

 今、袁術軍の兵力は2万2千。武将は6人。

 わが軍は1万と端数。武将は4人。

 さて、どちらが勝つのかと問われれば、子どもでもわかる様な問題だ。

 だが、勝算は十分にある。


「大丈夫さ。まあ、俺を信じて、配置についてくれ」

「本当に、殿の言うとおりに、なるのでしょうか……」

「駄目なら、また次の一手を考えるさ」 

「……畏まりました」


 さて、確認をしておくか。

 執務室を出ると、政務のコマンドは一切できない。

 その中には【部隊編成】があるのだ。これを、確認する。


【第一部隊】

 軍団長:小田裕也(後) 兵力1 歩兵


【第二部隊】

 軍団長:王双(前) 兵力6000 騎兵


【第三部隊】

 軍団長:郭図(後) 兵力2000 弓兵


【第四部隊】

 軍団長:劉禅(後) 兵力2000 弓兵



 よし、OK。さて行くか――

 俺は【出陣】を選択。


【小田裕也軍が袁術軍に宣戦布告しました】


 頭の中に浮かぶ情報ウィンドウに、兵力1の俺の部隊――というか、俺一人が【交趾】より現れる。

 目標は、袁術が守る【零陵】。10日で行ける距離。【交趾】からは目と鼻の距離である。

 まわりの風景が変わり、見渡す限りの原っぱが現れる。ターンを送りつづける。どんどんと風景が変わっていき、頭の中に浮かぶウィンドウ上で俺の部隊が零陵に向かって進んでいる。


 今からやる作戦は、このゲームで言う戦法『釣り』だ。

 敵CPUは、どんな数の兵が攻めて来ようと、必ず迎撃に出向いてくる。

 案の定、袁術軍も、あと五日の地点に俺が差し掛かった時、城から軍隊が出てきた。

 

【袁術軍部隊】

 軍団長:臧覇(前) 副官:兀突骨(前)・賈範(後)  兵力10000 歩兵


 勿論、このまま突っ込めば、普通に俺の部隊が消滅する。

 

 俺は情報ウィンドウを開き、臧覇の部隊が俺の部隊を目標としていることを確認。進路を【交趾】方面へ一回帰ってから、【零陵】へと向かうルートを選択する。


 このゲームでは、進軍ルートを自由に選択できるのである。だから、後漢末期に鄧艾が行った山岳を踏破し関を迂回することも可能だ。


 製作者は、そういった意図をもってこの機能を付けたのだろうけど、まあ、プレイヤーというのはあくどいことを考えるもので、完全に悪用されている。


 通常、攻撃部隊が退却する場合、追いつけないと判断したら敵CPUは城の中に戻っていく。

 だが――

 俺は、情報ウィンドウ上の自分の部隊の目標を、【零陵】に設定したままなのだ。

 CPUは、俺が寄り道をしたあとに零陵に攻めてくると判断している。

 それで、俺を追いかけてくる――俺の領土である、【交趾】にまでだ。

 

 これにより、各個撃破が可能なのだった。


 俺は、再び情報ウィンドウ上で【軍事】を選択。全部隊を、臧覇部隊に目標設定。

 俺は、【交趾】を通りぬけ、南側で待機。俺が居ても意味がないし、完全に足手まといだ。

 

 【交趾】すれすれで、四つの部隊が激突する。

 情報ウィンドウ上で、戦闘画面が開かれた。

 数的には互角だが――このゲームでは、一万の兵士を固めるよりも、五千と五千、そしてそれよりも二千を五つに分けて運用した方が効果的なのだ。挟撃扱いになり、【包囲】されていると認められるのである。


 更に、臧覇の部隊はここまでの行軍で士気がやや下がっており、士気が満タン状態のわが軍の方が同数であるならば有利。


 戦闘画面では、俺の狙い通り、わが軍の部隊の消耗度よりも、臧覇部隊の消耗度の方が多い。

 そして、自領土では戦闘特技の発動率が上がる。


『我は、王双』

【王双の騎兵LV2が発動】

 

 騎兵が敵軍になだれ込み、兵士数1000人弱を撃破する。……メッセージも、それなのかはともかくとして、戦闘特技の○○LV~はそのレベルと武力と自軍兵力の値に応じて相手方の兵数を減らすというものであった。


 これで我が軍の総数は9200、相手方は7000弱。数的優位もなくなった。

 相手方の士気も徐々に下がっており、このままいけば、勝てる――が、それだけではいけない。

 こちらの損害を更に出さないためにも、俺はウィンドウを操作して、郭図の【虚報】を使うことにする。


 【虚報】が成功すれば、相手方はかく乱状態になり、部隊攻撃力が0になる。その間、殴り放題ということだ。


 まあ、そのため、成功は結構難しい。

 成功となるには、その部隊にいるすべての武将の知略を元にした値の判定に勝利しなければならない。

 三人の武将の内、賈範が知略70なので、まあ、難しいはずだ。

 だが、計略は任意に発動できるが、一度使うと5日は使えない仕様だ。ダメもとでも行うべきである。


【郭図の虚報は失敗しました】


 案の定、成功しなかった。

 ん?


【王双が兀突骨に一騎討ちを挑みました】


 戦闘が一時中断され、自軍と敵軍の輪の中に、王双と兀突骨が現れる。

 

『我は王双』

『……』


 兀突骨の武力は、87。その差3。当たり前のように武力の高い方が一騎討ちは勝ちやすいが、3差は結構ブレが生じる値だ。ちょっと、いや、かなり怖い。

 うーん、やっぱり、王双は後衛にするべきだったろうか?


 部隊内では前衛と後衛に分けることが出来る。前衛は戦闘特技発動率が上がって、一騎打ちが発生する。【猪突猛進】と相まって、もう誰彼構わず挑む。


 だが、後衛にさえ配置すれば、一騎討ちは発生しなくなるのだ。

 しかし、もう遅いし、現にそのおかげで、序盤にかなりのアドバンテージを得た。今更言っても仕方ない。

 

 一騎討ち画面では、王双と兀突骨の攻防が繰り広げられている。


「……うっ」


 まずい。体力が、徐々に差が付き始めている。相手方は軽い攻撃で確実に当てているのに対し、王双は大振りで大ダメージを狙っているのだ。


 ついに、王双の残り体力が一コンマになる。相手の体力は半分くらい。


 王双の攻撃が……外れる。外れた!?


 兀突骨の攻撃。鋭い突きが、王双を襲う。万事休す。俺は、すぐさま王双の部隊を【交趾】に帰還するように準備。


 ――が。それを避ける。よ、避けた!?


『我は、王双!』


 王双の周りにオーラが集まり、大振りの攻撃が、兀突骨を襲う。

 必殺攻撃。体力が一定値以下の時に確率で選択される。当たれば、どんな体力だろうと勝利となる――当たった。

 兀突骨が崩れ落ち、王双が勝ち名乗りを上げる。


『我は、王双!』


【王双が一騎討ちに勝利しました】


 し、心臓に悪い!

 思わずその場に膝をついた。

 体中から嫌な汗が噴き出ている。

 と、ともかくとして、一騎討ちに勝ったことにより、臧覇部隊は士気がかなり下がり、王双部隊の士気は激昂状態。みるみるうちに、兵数が減っていく。

 更に、


『我は、王双!』

【王双の騎兵LV2が発動】


 ――もう全部、あいつ一人でいいんじゃないかな。

 わが軍の騎兵隊が臧覇部隊を蹂躙し、ついに残り兵数が1000を切った。


 ん?

 ここにきて、【零陵】から部隊が出陣している。

 確認してみる。


【袁術軍部隊】

 軍団長:紀霊(前) 副官:程銀(前) 兵数7000 騎兵


 目標は……【交趾】? ああ、そうか。今の城兵は200と少しだから。『攻め落とせる』と思ってやってきたのだ。

 しかし、もはや臧覇部隊は風前の灯火。これを殲滅し、一旦【交趾】へと帰還して負傷兵と捕縛した武将を収容してから、取って返して紀霊の部隊をたたけばいい。


 ――と、臧覇の部隊が消滅した。


 俺は全部隊を一旦【交趾】へと向ける。捕縛した武将は……兀突骨だけか。兀突骨は、一騎討ちに負けたためにけがを負っており、そのため、捕縛しやすくなったのだろう。


 んで、負傷兵は……5500。これは、相手方の負傷兵も吸収したためで、このゲームでは消滅した部隊の負傷兵は、殲滅した部隊の総取りとなる決まりがある。


 そして、我が方の現有兵力は、合わせて8000。負傷兵を合わせれば、13500ということ。大勝利だ。いやー……出来過ぎなくらいに、上手く行ってしまった。


 負傷兵は相手方の者もあるが、治ればすべてわが方に組み入れることが出来る。こんな風にしても、兵数を増やせるというわけである。更に、この方法だと【民心】が下がらない。

 そして、今、おかわりがこちらに向かいつつある。


 勝った。間違いなく。こうなったら、袁術軍ももう終わりだ。悪いが、その全てを、吸収させてもらう。

 

 全部隊を【交趾】に収容。

 そして、王双部隊と劉禅部隊をすぐさま出陣させ、【交趾】へと迫った紀霊部隊に向かわせる。 

 すでに戦闘画面が頭の中のウィンドウには出ていて、【交趾】の城門から、颯爽と王双の騎兵部隊が現れる。


 郭図は城に待機させたままだ。

 部隊が出陣しない場合、その兵数はすべて城兵になり、一番役職の高い者がそれら全てを率いることになっている。


 俺は【交趾】の外で待機したままだから、この場合郭図が城の総大将になる。

 そして、この場合相手の部隊が1であることから、城兵からの攻撃と王双・劉禅との部隊とで、先ほどと同様包囲攻撃扱いになり、わが軍有利で戦えるのだ。


 攻めるのには、防御側の三倍の戦力がないと駄目だというが、このゲームにも当てはまっているといえる。


 そして、勿論自分の領土内だから、王双の特技にも期待できる。

 普通に戦っていれば、ごくごく普通に、我が方の勝利で終わるはずだ。


【王双が紀霊に一騎打ちを挑みました】


 お。

 また王双が一騎討ちを選んでくれた。

 その差は、8もある。

 武力差8は、まず負けない。十パーセントあるかないかくらいじゃなかったか。

 ということは、紀霊も捕縛できる可能性が高まるし、また我が軍の損害を減らすことにもつながる。

 いやー、王双大活躍だなあ。初めの杞憂が嘘みたいだよ。うんうん。


 王双の攻撃、はずれ。

 紀霊の攻撃。

 王双の攻撃、はずれ。

 紀霊の攻撃。

 王双の攻撃……ようやく当たる。


 また、ハラハラする展開だ。いや、でもさすがに――武力差8だぜ。負けないだろ。たぶん……きっと。絶対――あ。


【王双が一騎討ちに敗北しました】


 王双が斬られた王双が斬られた……うーん。


 その場に卒倒しそうなくらいにショックだ。しかも、この序盤で。

 すぐさま王双の状態を確認――重傷。

 怪我を負った場合、その武将のすべての特技が発動不能になり、その度合いに応じて能力値が下がる。確率によれば、討ち死にもあり得ただけに、九死に一生を得たか。


 けど……今と先ほどとはわけが違う。

 俺は、冷静になれと頭の中で念じながら、劉禅に【鼓舞】を発動させる。


『皆の者、元気を出せ! 阿斗がついておるぞ!』


 計略【鼓舞】は隣接した部隊も同時に士気を回復できる。王双部隊と劉禅部隊を【交趾】へと帰還――する前に。


『騎兵部隊! 敵兵を縦横無尽にかき乱してやれ!』

【紀霊の騎兵LV1が発動】


 紀霊には【勇猛果敢】があり、これは戦闘系特技をデメリットなしに発動しやすくなるという特性がある。こ、ここへきてさらに追い打ちか……!


 王双の部隊に騎兵部隊が突撃する――


『我は、王双!』

【王双が騎兵LV1を無効化しました】

 

 特技レベルが高い者は、確率でその特技を無効化する時がある。

 王双は重傷を負っていて特技は発動できないが、特技無効化はゲーム的には有効だった。


 俺は、もう、力なく、へなへなとその場に腰を下ろした。この子、役に立つんだけど……すごく、なんか、心臓に悪い。かなり。

 

 と、ともかく! 急いで二人とも都市の中に入ってくれ。

 

 劉禅の兵力は1000を切っていたので、相手方の戦闘特技が発動されれば劉禅が死ぬ可能性がある。……まあ、可能性は少ないけど。少しでもあるのなら避けたい。

 それに、士気と能力の下がった王双部隊と劉禅とでは、包囲攻撃をしていても、戦況が有利にならない。今の最善手は、城に帰還することだ。怪我は、施設内に入らなければ回復に向かわない。

 

 相手は騎兵なので、城兵へのダメージはそれほどない。兵数が減る前に帰還したので、まだ、8000の城兵がいるし、続々と負傷兵が治り、戦列に加わってくれるはずだ。

 そして、相手方の兵科は弓兵ではないし、二人とも弓兵の特技を持っていないので、このままでいけば、結構な損害が出ても、勝利するはずだ。

 普通の状態ならば。


問題は【交趾】の耐久値だ。

 耐久値は、全く手に付けていなかったのだ。というか、それをする暇なんかなかった。

 現在の耐久値は、7……一ターン送っただけで、6になっている。城兵が必死に紀霊部隊を攻撃しているが、猶予はあと7ターン以内とみて良い……二日で、どうにかしないと陥落する。


 ――どうする?

 明確に迫ってくる死の予感に、胃袋が押しつぶされそうだ。 


 王双部隊を再び戦線に復帰することは可能だ。

 だが、それは敗北を先延ばしにしたに過ぎない。


 とりあえず俺は【交趾】へ帰還するか?

 いや、駄目だ。交戦状態の都市に近づいただけで、その部隊もまた交戦状態と判定される。つまり、俺は近づいただけで、俺の部隊が殲滅される。


 では、郭図・劉禅部隊で押し出すか――一騎討ちに勝利した紀霊部隊を相手に、それほどの時間稼ぎを得られそうにもないし、逆に戦闘特技が発動し、彼女らが撃破される可能性がある。


 あ。

 そうだ。郭図には、【虚報】がある。

 あれから、五日経っているので、計略を実行できる。


 【虚報】でかく乱状態にできれば、まだ勝機がある。紀霊も程銀も知略が低いから――この手しかない。

 だが、士気の高い状況では、計略もまたかかりにくくなるのだ。

 そして、外れてしまえば、もはや勝機はない。


 だから――やるしかないな。少しでも、勝率を上げるための、大博打を。


 【挟撃】扱いは、計略にかかりやすくなる。それも、包囲する部隊が多ければ多いほど。

 つまり、全部隊を出陣させれば、城兵・王双・郭図・劉禅の四方面からの包囲攻撃になる。そして――あと一部隊。それが、ここにいる。


 さあ、と風がその時吹き抜けた。


 兵力1の小田裕也部隊。つまり、俺のことだ。

 

 たとえ兵力が1であろうとも、瞬間的にだが、ゲーム的には五方面から包囲攻撃を受けていると判定されるはずだ。

 そして、【虚報】が決まれば、部隊攻撃力が0になる。“タイミングさえ合えば”、俺は無事、生還できるはずだ。


 合わなければ、そして、計略が決まらなければ、それは――


 目をつぶる。


 何故だか劉禅の顔が思い浮かぶ。

『阿斗に任せおけば、こんなのへの河童じゃ!』

 と腰に手を当てて、意外にある胸を張る劉禅の姿が思い浮かぶ。

 はあ、とため息。

 なんだか、妙に力が抜ける。

 不思議と、出来そうな気がしてくる。


 俺は、自部隊を情報ウィンドウ上で紀霊部隊に目標に設定。

 行軍期間は、ここから一日で到着することになる。

 どくん。心臓が鳴った。

 それを、【実行】する。

 

第一話において、出てきた武将の能力を上方修正しました。

呂布の武力を105から108に。


曹操の特技を、【歩兵LV3】【騎兵LV2】【鼓舞】【虚報】【罵声】【罠】【弁舌】【同士討ち】【策謀】【反計】【造営】【冷静沈着】にです。





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