第六話
このゲームの世界では、【野心】の高い人物は忠誠度が低い時に勢力から独立したり、空白都市がある場合は旗揚げしたりする。
袁術は史実でも皇帝を自称していたためか、かなり、野心が高かった覚えがある。
【袁術公路】
統率 14
武力 12
知略 34
政治 44
魅力 7
【特技】
【挑発】
【巡察】を終えた郭図を呼ぶ。執務室にいるのは、他に劉禅だ。
王双は役に立たなそうなので、そのまま【徴兵】に向かわせている。
現在、【交趾】の兵力は1104人。向こうの兵力は、旗揚げ時のボーナスで一万五千と、武将五人がいる。
「袁術が【零陵】に?」
と、郭図が眼鏡の奥の目を丸くさせる。
「確かなのですか?」
劉禅の時も思ったが、どうやら彼女らはこの頭の中に情報ウィンドウが浮かんでこないようだった。とすると、君主だけなのか?
「ああ、確かな情報だ」
「裕也、命令してくれれば、阿斗が外交に言ってくるがのう」
劉禅が進言してくる。
だが、俺はその意見を跳ねのけた。
「郭図、【徴兵】を行ってくれ」
【徴兵】は統率の値を参照し、彼女の統率は低いが、それ以上に兵隊を集める方が急務だった。
「すると――袁術と事を構えると?」
郭図が眼鏡をくいっと上げて、片眉を上げる。
「ああ。そうだ」
俺は、頭の中に浮かんできたウィンドウから、袁術にいる武将を確認する。
程銀、兀突骨、賈範、臧覇、紀霊……この中で要注意なのは、臧覇と紀霊だ。
【臧覇宣高】
統率 89
武力 67
知略 51
政治 45
魅力 64
【特技】
【歩兵LV1】【弓兵LV1】【挑発】【猪突猛進】
実は臧覇もまた【武将能力編集】で上方修正をしたキャラクターだった。彼は個人で伝も立てられているほどの将軍であり、史実ではかなりの武功がある。正直この能力では足りない位なのだが、強くなりすぎると、今度は史実モードで曹操軍が強くなりすぎるため、統率だけを89に上げて置いた。……本当に思いとどまってよかったと思っている。
【紀霊】
統率 77
武力 82(+1)
知略 52
政治 29
魅力 44
【特技】
【歩兵LV2】【騎兵LV1】【勇猛果敢】
武官としては、かなりまとまった能力と言える。史実では知らないが、演義ではあの袁術に最後まで付き従ったのが紀霊である。実は結構好きな武将の一人ではある。
要注意、というが、勝てる。おそらくは。
是非とも戦う準備を整え、撃破し、彼らの戦力を吸収すべきだろう。むしろ放っておけば、彼らは戦力を整え、撃破が難しい状況になる。
――本当に、それでいいのか?
「裕也? 大丈夫なのか?」
劉禅が俺を心配そうに見ている。
「何が?」
「結局、今日は休みにならなかったであろ? 顔色が悪いようじゃが……」
「ああ……」
正直疲れはある。だが、敵が目の前に現れて、何かやっておかなければいけないような気持が先行している。というか、こんなそわそわした気持ちで、眠れるわけがない。
曹操軍から逃げていた時とは、状況が違う。戦える戦力は、十分にあるといえる。
むしろ、ここで戦い、相手の戦力を吸収できないようで、どうしてこの先戦って行けようか。
「大丈夫だよ。これくらい……劉禅、君は、そうだな。【巡察】……あ、いや。【人材探索】を頼む」
【徴兵】は民心を下げる効果がある。【巡察】も同時に行って、それを緩和しようと思ったのだが、
【人材探索】により、また義勇兵のイベントを引き当てることを期待したのだ。
今必要なのは、兵隊の数。
【徴兵】は統率の値を参照するので、俺同様、彼女には向いていない。
「……分かったのじゃ」
劉禅が出て行き、俺は執務室の椅子に座った。
どうにも……胸の辺りがもやもやする。
と、あることを俺は考えないようにしていた。
考えてしまえば、その思考が、勝利への邪魔をしてしまいかねない。
ぶんぶんと首を振る。
……今は考えない方が良い。
戦った後で、それは、ゆっくり考えよう。