第二話
劉禅の外交の結果が分かるのは、十日後だ。つまり、三十ターンが経過すればである。
ターンを進めて……俺は思った。
そういえば、食事はどうすればいいんだ?
ゲームでは、一日が経ったのだが、俺は寝ていないし、飯も食べていない。そう考えていくと、空腹になってきた。
「まさか、リアルに飢え死にするんじゃないだろうな……?」
俺は、この世界に来て初めて執務室を出ることにした。
これだけリアルなんだから、食べ物くらいはある……はずだろう?
政庁は、結構入り組んだ作りだった。きょろきょろとあたりを見回しながら歩いていく。
「これは、太守様、どちらへ?」
警備兵が、俺を呼び止める。
「ああ、えっと……ご飯とかないのかなって」
「ご飯、ですか? ああ、そういえば、太守様は、昨日は劉禅様の家を訪問した後、一日中執務室にこもりきりでしたね。後で運ばせましょう」
あるのか……!
良かった。
とりあえず飢え死にはせずに済んだようだ。
「うん……?」
ちょっと待ってくれ。気になることを言っていた。
「君、さっき俺が一日中執務室にいたとか言ってたな」
「はい」
「その間、君は何をしていたんだ? もしかして……ずっとこの政庁にいたのか?」
「私は、警備の時間が終われば家に帰りますが……」
ということは――さらに俺は質問する。
「君は、昨日は寝たのか?」
兵士は不思議な顔をする。
「勿論です。寝ずの番など、よっぽどのことですし」
「何時間くらい? あ、いや、どれくらい?」
「そうですね……昨日は少し夜更かししましたので、深夜から早朝にかけてですね」
うーん。どうやら……俺の流れている時間と、彼らの流れている時間は違うようだぞ。
しかも、劉禅も言っていたが、俺は、『劉禅の家を訪問したらしい』。
そんな記憶もないのにだ。
つまるところ、過程がすっとばされている。まるで某漫画のボスキャラの能力のように。俺が、ターンを送る間、この世界の住人は、普通に飯を食べ、寝て、通常の生活を送っているようだった。
ということは――うーむ。
「太守様? 何かお調べですか? 不審な点でも?」
「あ、いや。何でもない。食事を執務室に運ばせてくれ」
後にしよう。
時間が来るとターンが進むのだ。時間を有効に使わなければならない。
俺は急いで執務室へと向かった。