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三国志遊戯  作者: 三十四
184年8月
13/14

第十二話

「方策は単純に三つです」


 郭図が俺に進言してきた。曹操軍が攻めてくるにあたって、その善後策を尋ねたのだ。


「一つは、戦うことです」


 曹操軍の兵力は、2万5千人。

 俺の軍の兵力は、2万8千人。

 攻撃側が曹操軍であり、防衛側が俺。こう並べてみると、すごく俺の方が有利に見える。


 だが、その陣の中にいる武将は、曹操、夏候惇、郭淮、賈詡、費禕、紀霊、臧覇、呂布など、計15人の将がひしめき合っている。……何時の間にこんなに集めたんだ。


 こちらの将は、俺、王双、劉禅、郭図のみ。


 将棋に例えれば、相手は全ての駒が使える、しかも飛車角が2枚づつあり、金銀が8枚くらいあるというのに、俺の方は飛車、銀将、歩だけ。しかも王将が歩の動きしかできないという戦力差がある状況(更に向こうの王将は龍か馬の動きが出来る)だった。


 うん。無理。まともな思考をしていれば、無理だと分かる。


「もう一つは、外交により和睦することです」

「和睦か……」


「もう一つは、降伏することでしょう」

「うーん……郭図はどう思う?」


 眼鏡をくいっと上げてから、彼女は得意な顔で言った。


「戦うことかと思います」

「郭図は、俺たちの戦力で曹操軍に勝てると思うのか?」

「降伏は論外。和睦は、ここまで攻めてきている曹操軍が、簡単に応じてくれるとは思いません」

 

 うーん。

 確かに、勝算は低いながらある。

 俺が兵力1で釣り出して、袁術の時みたいに各個撃破できればだ。

 それには相手の戦闘系特技が発動しないことを祈ることと、呂布との一騎討ちが発生しないこと、曹操軍の計略が発動されないことをお祈りせねばならない――

 セーブが出来れば、やってみても良いが。勝算が低すぎると思う。


「しかし、戦力差がありすぎるんじゃないか?」

「何をおっしゃいます。殿の武勇さえあらば、この戦、五分と五分。そしてわたくしの計略があれば、必ずや勝利を収めましょう」


 あ、郭図は俺のあのインチキな武勇を、真実だと思っているのか。それを計算の内にいれているから、そのように思うのだ。


「郭図、和睦するには、どれくらいのお金を渡せば良いと思う?」


 俺が自分の意思を伝えると、郭図はむっとしながら、答えた。


「金3000は必要かと」


 現在の持ち金は、兵糧を売ったお金もあり、金5400。それじゃあ、兵糧を売って、と。


「郭図、劉禅。それぞれで金3000ずつ持って、曹操に和睦をしに行ってくれないか」


 和睦と言っているが、【外交】コマンドの【贈物】である。

 これは、指定した勢力に、物資を送り、好感度を上げる効果がある。

 好感度が上がれば敵対関係が解除されるほか、交戦状態になっている部隊をも解除され、退陣してくれる効果がある。


 ただし、好感度が上がろうと、攻めてくるときは攻めてくる。

 安心できるのは、同盟関係になった時だけである。


「殿、わたくしをお疑いなのですか?」

 

 眼鏡の奥の目が、不満そうに細まる。


「疑っているのは、自分の実力だよ。本当に、あれはたまたまなんだ」

「だから、偶然であのようなことは起こりません」

「良いではないか。戦続きでは民草も疲弊するのじゃ。それに、曹操殿と同盟できれば、後顧の憂いが無くなるしのう」


 そう。

 曹操と同盟を組めれば、後ろからくる敵は誰もいない。安心して【交趾】から離れ、北の荊州か、東の揚州へと軍を集中できる。


「――かしこまりました」


 若干不満そうな顔をしながら、郭図は頷いた。


 我が軍の方針は、和睦に決まり、俺は捕えていた程銀と兀突骨を離すことになった。

 袁術が降伏したので、彼らは、曹操軍となっているのである。

 勢力の武将を捕縛し続けていれば0、好感度は下がり続ける。和睦をするには、捕縛している彼らを離す必要があったのだ。


 だが、その二十日後。


「申し訳ございません。曹操は、我々の贈り物を受け取りませんでした」


 うわ……マジか。

 うーん。これは、判定に負けたか? まあ、【零陵】を攻め取ったし、武将も捕獲していたから、敵対的な行動しか俺たちは取っていないし。


 ここは、もう一度行うべきであろうが。しかし、時間をかければかけるだけ、どんどんと自軍は不利になっていく。となると――


「……言っておきますが、わたくしは善処いたしましたからね」

「何のことだ?」

「わたくしの意見が聞き入れられなかったからと言って、手抜きをしなかったということです」


 何を言ってるんだ、この子は。


「郭図がそんなことするわけないだろ」


 情報ウィンドウ上で行われることは、『俺が見ていない限り』絶対であることは確認済みだった。

 俺の即答に、目を瞬かせる郭図。


「どうした?」

「いえ、何でも……」

 

 それよりも、曹操をどうするかだ。



 曹操軍の【建寧】と【雲南】から、合計兵2万が【交趾】領内の陣内へと移動していくのが、情報ウィンドウで見て取れた。あれが来たら、曹操軍は戦端を開くはずである。

 リミットは、それまで――あ。


 そうだ、そうだ。あの方法を利用すればいいんじゃないか?


「郭図、俺が曹操軍へ行ってくる」


「何を言ってるんです?」


 本気で信じられないという顔で、郭図が眉根を寄せた。


「君主自らが敵陣へと行くなど――殺されますよ! 相手は曹操なんですよ!?」

「大丈夫だよ」


 このゲームは、【外交】コマンドで死ぬことはない。

 現に、二人とも敵陣の中に入って、帰ってきている。


「今は、曹操軍と和睦するのが、最善手だよ」

「殿は、あの敵兵が囲まれている中で、逃げ出せるのですか? 和睦がまとまらなければ、即座に殿は首を刎ねられる可能性があるのですよ?」

「外交に失敗しても、逃げれるさ」


 失敗すれば、ターンを送るだけで帰ってくることが出来る。何のことはないのだ。


「……殿は、曹操を説得できる材料があるのですか?」


 と、郭図は俺を睨んでくる。


「勿論だ」


 俺には秘策があった。あの、俺が知覚すれば、ゲームの処理よりも優先されるというのを利用するのだ。


 

「阿斗も反対じゃ。さすがに危険すぎはせんかのう?」

 

 劉禅も反対してきた。


 うーん。曹操の説得よりも、この二人を説得しなければいけないとは。


 ばーん!


 その時のことだ。

 扉が勢いよく開かれ、王双が入ってきた。


 そして、俺に詰め寄ってきて――近い、近い近い近い!


「近いって!」


 まさに目と鼻の先という距離で、彼女は口を開いた。


「我は、王双!」


 それに、ふむ、と劉禅が頷き、言った。


「話は聞かせてもらった。王双殿は、自分もついていくと言っておる」


「わかるのかよ、劉禅!?」


 いや、もしかしたら俺だけが通じていないのか――? 郭図を見てみる。


「分かるのですか、劉禅!?」


 やっぱり、俺の耳がおかしいわけではなかった。


「なんとなくわかるであろう? このやる気に満ち満ちておる王双殿を見ればのう」

 

 ふんす、と鼻息を出した王双はこくりこくりと何度も頷いた。


「確かに、王双殿が一緒ならば、殿の安全は確保されるかと」

「うーん。本当に大丈夫なんだけどなあ」

 

 しかし、これで二人が納得するというのなら、仕方ない。俺は王双とともに、曹操の下へと向かった。



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