第十一話
作戦は、前回と同じような感じだ。
兵力1の俺がまず【零陵】へと向かって囮となり、他の部隊を【零陵】へと向かわせ、城兵の兵力を0にして、占領する。
前回と違う点は、俺以外の部隊の兵力が増えていることと、そして、王双の部隊に井闌を加えたことだ。所謂、攻城兵器で攻撃できるようになったのである。
部隊が進軍していく時に、【組立】を選べば、兵科が井闌へと変わる。
井闌は木材を組み合わせて高い場所から弓を放つ攻城兵器であり、城兵に対しては効果的に機能する。
ただし、こういった攻城兵器は部隊の攻撃力と防御力がかなり下がっていることが注意点だ。
また、【組立】も【解体】も一日かかるので、使いどころを間違えれば即座に部隊が壊滅する恐れがある。
さらに攻城兵器はその部隊数に応じてお金がかかる仕様である。
「でも、早く他の兵器も開発しないとな……」
兵器開発にはレベルがあり、レベルが上がると、霹靂車、木牛、連弩、鉄騎兵が選べるようになる。また、都市を占領することによって、開発することができる兵科も変わってくる。【雲南】を占領していれば、象兵と藤甲兵、【呉】や【襄陽】を占領していれば、闘艦など。
どれもかなり強力ではあるが、それらを開発するには時間と金が必要だ。弱小勢力であればあるほど、早急に開発が必要だった。
まあ、今は言っても仕方ない。早い所都市を占領し、人材を確保して、【民心】と【産業】の値を上げていかないといけない。
――そのために、袁術軍を滅亡させるのだ。
「出陣する。各自、配置についてくれ」
俺は兵力1で【出陣】。
現在、袁術軍の兵力は1万3千。五日後、兵力1の俺に対し、6千の敵兵が出陣してきた。軍団長は臧覇、副官は紀霊である。
俺は、進軍ルートを【零陵】に目標を合わせたまま、【桂陽】を迂回するルートを取る。
王双たちが【零陵】を攻め落とした後、袁術軍は滅亡し、臧覇の部隊は消滅するのである。
だから、ついでに空白都市の【桂陽】を攻め落とすのだ。
これにより、【柴桑】の皇甫嵩と隣接することになるが、問題はない。
【柴桑】と【桂陽】の間には山岳地帯があり、これを迂回しなければいけないのだ。つまり、攻撃してくるのに、かなりの期間がある。今の俺たちならば、迎撃することが可能だ。むしろこちらはその負傷兵と武将が捕獲できるチャンスがあるため、是非とも来てほしいくらいである。
俺は【桂陽】に進軍しながら、情報ウィンドウ上で【零陵】の敵兵が激減していくことを確認する。
守備大将である袁術の統率も低く、全快した王双の井闌部隊が、効果的にダメージを与えているようだ。
もう一日ターンを回せば、壊滅できそうである。
俺は、目標を【桂陽】に変更する。これで、俺を追っている臧覇部隊は【零陵】に取って返すことになるが、時すでに遅し。袁術軍は滅亡しているというわけだ。
袁術軍が滅亡すれば、捕虜となっている程銀や兀突骨も主がいないということで、わりと簡単に登用に応じてくれる。これで、また俺たちの戦力は増強されるというわけだ。
さて、一日ターンを回そう。
【袁術軍が曹操軍に降伏しました】
【袁術の勢力が滅亡しました】
【小田裕也軍が桂陽を占領しました】
【小田裕也軍が曹操軍の零陵を占領しました】
――え?
今、何だかあってはならないメッセージが現れた気がしたが――
俺は、マップを確認。え? いる。 臧覇部隊が。
所属が――曹操軍!?
な――、あ、ええ!?
「や、やられた!」
今起きたことを解説すると、外交には【降伏勧告】コマンドがあり、これに成功すると、その勢力のすべての都市と武将が、その勢力の物となるのだ。
そして、【降伏勧告】は、その国が窮地に陥れば陥るほど成功しやすいのである。
たとえ、それが、攻めていない、他国であってもだ。
そして――俺は、とんでもないものを見つけてしまう。
【交趾】の西。十日かかるくらいの距離に、陣が設営されてあった。曹操軍の所属。臧覇部隊が、どこへ向かっているのかを調べていたら、そこにそれはあったのだ。
【設営】は進軍途中で選ぶことが出来る。内容は陣と砦と城塞のどれか。どの建築物も、設営できてしまえば部隊の士気の回復が可能だった。
タイミングが、悪かったのだ。
一度宣戦布告されたら、外交により関係を修復しない限り、警告のメッセージが現れることはない。
おそらくは、俺が出陣したその時くらいに、曹操軍も【交趾】に向かっていたのだ。
俺はずっと【零陵】の様子を見ていたから、向かってくる曹操軍に全然気が付かなかった。
――本来ならば、【交趾】の近くで陣を設営されている段階で、叩くか、【外交】で土下座外交をしないといけないのに。
「や、やばい。これは確実にやばい!」
急いで【零陵】にいる全部隊を【交趾】へと帰還させる。
俺も、【交趾】へと移動する。
曹操がやってくる。
それが、どれだけ絶望的な事なのか――今、俺は曹操と同時代に生まれた劉備の気持ちが痛いほどよく分かった。