プロローグ
外は、びゅんびゅんと風が鳴り、轟音を立てて雨が降っていた。
夏特有の、突然のゲリラ豪雨のようだった。
そんな窓の外を眺めつつ、俺は一欠伸。ぽてちの袋に手を伸ばして、ぱくり、コーラをぐびり。
「飽きたなあ」
というのは、PCの画面に展開されている三国志のゲームだった。三年前に発売されたものだ。
俺は全く三国志なんか興味がなかったのだけど、親父がくれたパソコンの中に入っていたものだ。そのおかげで、今ではまあ、わりと三国志に関しての知識を蓄えられている。
時折、思い出した時にプレイしているのだが、まあ、さすがに、一年間もやっていると飽きてきた。
マウスをクリック。
『洛陽を占領しました』
というメッセージが画面上に現れる。はいはい。
戦略シミュレーションゲーム特有の、終盤の作業感。これは、もうどうしようもないことだ。AIに任せても、数の暴力によって勝ってしまうのだ。
「明日は学校だしなあ」
夏休み前だから猶更怠い。この貴重な高校二年生の夏に、こんなことをしていいのか――とは思うが、他に何か思いつくでもない。
「バイトでもすっかなー」
ゲームのウィンドウを閉じて……もう一度タイトルを立ち上げる。
もうあとは作業なので、初めからまた開始しようと思ったのだ。
「まだやってない縛りプレイでもやるか―」
うーん。荊州四英傑は全員クリアしたし、兵器縛りもやったし……いずれも、難易度極悪でだ。
あ、そうだ。
俺は、『武将作成』を選ぶ。
このゲームは、史実武将以外のキャラクターを自由に作ることが出来た。
その中に、『小田裕也』の名前を持つキャラクターがいる。俺のことだ。
それを開き、『能力値編集』を選ぶ。
【小田裕也】
統率 1
武力 1
知略 1
政治 1
魅力 1
【特技】
なし
よし。これで、フリーモード……史実の三国志をなぞるのではなく、全ての武将がフリー状態、誰にも仕えていないモードを選ぶ。
この小田裕也を、そうだな……一応、外敵の心配のない【雲南】の太守に配置する。それくらいのハンデを貰おう。
で……あとは、おまかせ、と。
これでほかの四十か所の地域にランダムで太守が決められ、適当な武将が配置される。
難易度は勿論【極悪】。親子関係や義兄弟関係などがリセットするモードがあるが、それを切らずに史実に忠実なモードを選ぶ。【小田裕也】にはそういった仲がないので、このモードを選ぶ方が難しくなるのだ。
よし、よし、面白そうだ。さすがに、これはかなりプレイスキルが求められるな。暇もつぶせそうだ――言ってて悲しくなるけど。
それじゃ、早速開始ボタンを押す。
【ローディング中……】
ピカッ
ドーン
な、何だ? 爆発?
部屋の電気が消えて、真っ暗になる。停電!? あ、どこか近くで雷が落ちたのか!?
うわ、やばいパソコンのデータが消えてるんじゃ……
「え?」
画面が、切れていない。真っ暗な部屋の中で、パソコンの画面に、高速で文字列が表示されていく。
な、なんだ? どうしたんだ?
その文字列が止まる。明滅。すると――
「は?」
俺の真上に、穴が広がった。
「ちょ、ちょっと――」
吸い込まれる――掃除機で吸い取られるみたいに。その中に、ベッドが、ハンガーにかけられている制服が、ポテチとかゴミとか色々が吸い込まれていく。俺は学習机に捕まっていたが、その学習机もまたウキアがる。並大抵の吸引力ではない。訳も分からず、その穴の中へと吸い込まれてしまった。
――覚えているのは、そこまでで。