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遺産相続したら魔界で爵位まで継承しちゃった件  作者: 桜
【第一章】 財政再建 編 
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財政難

 『流石にこれでは……』オレの抱きかかえる緑色の血にまみれたガーゴイルを見たバランの第一声だ。たしかにそうだろうオレもそう思った。


 ところがオレたちの予想に反して野生のガーゴイルの生命力というのは凄まじいものだった。連れ帰った最初の数日こそはほとんど動かずにグッタリとしていたが、五日も経たないうちに元気に部屋の中を歩き回るようになった。


 熱心に治療を手伝ってくれたポルチのおかげでもある。その都度もの欲しそうな表情で遠まわしに食べ物ねだるのがなければもっと素直に感謝したいところだ。


 だいぶ元気になってきたというのに、いつまでも『ケガをしたガーゴイル』と呼ぶのも何なので名前を付けることにした。


 全身が真っ白なのにちなんでシロと名付けることにした。バラン以外はこの名前の意味を理解できていないようで、口々に『素敵な名前です』『流石はダン様っス』などと言われるとどことなく罪悪感を覚えてしまう。


 父の魔物図鑑によればガーゴイルは最も低位な魔物の一種らしい。雑食で群れを作って行動するがもともと仲間意識は薄く、これは他の魔物にも共通する性質のようだ。魔物は基本的に短絡的な行動が多く知能はあまり高くない。ただし、中位以上の魔物の中には人間以上の知能を持つものも存在するらしい。

 一般的に魔宮から産み出された魔物がそのまま野生化した場合、少しずつその凶暴度を増し場合によっては周辺地域に甚大な被害を及ぶす存在となる。

 

 人間のオレからするとガーゴイルの姿容はいかにも魔物といった印象なのだが、極端に低位の魔物であるガーゴイルはほっといても農作物を荒らしたり、自分より弱そうな生物を見付けるとちょっかいを出す程度の被害にしかならないらしい。

 実際にガーゴイルの場合は他の野生動物に襲われることもあるらしいので、そういう意味では凶暴な野生生物のほうがよほど危険な存在と言えるだろう。


 子供のガーゴイルだったこともありシロはすぐに懐いた。拾って来たときにはほとんど意識がなかったように思えたが、魔物なりに窮地を救われたという感覚があるのかもしれない。ただ、仲間に襲われた恐怖心が残っているのか、ひとりになると寂しがり情けない鳴き声を上げることがあった。そんなときには置き去りにするのが可愛そうなので肩に乗せて一緒に連れ歩くことにした。


 ある時バランにどうしてシロが他のガーゴイルたちに襲われていたのだろうかと問いかけた。『産まれつき真っ白な固体だったからでしょう。低位の魔物とはそういうものでございます』予想はしていたが、事も無げに言い切られると何か胸に突き刺さるような思いがする。人間界でも野生のアルビノが生き残るのは容易ではない。仲間外れになり外敵に襲われる。これは排他主義などではなくごく当たり前のことだ。


 それに人間界では全身が真っ黒な生き物は不気味がられることがある。

 そう考えれば全身が真っ白というのは、魔界の野生生物たちの目には不気味に映るのかもしれない。いずれ完全に回復したら野生に戻してやるべきかとも思っていたが、バランの言葉を聞くとその行為が正しいのかどうかわからなくなる。

 ただ、肩の上で気持ち良さそうに毛づくろいをしているシロを見ていると、今はとりあえずこれでいいようがしてくる。



 

 ひと通りロックランド領内を見て周り、いくつか気が付いたことがある。

 まず、驚いたことにロックランドには街らしい街がない。つまり人口密集地が存在しない。東部と南部には所々にテントや掘立小屋のような家が見られるが、人口的に作られた園地や牧場も確認することはできなかった。それどころか他の地区にいたっては人が住んでいる形跡すら見られない。

 

 この領地はどうやって成り立っているのだろうか。魔界自体がそういう場所なのかと思いバランに聞いてみると、どうやら他の領地はそうではないらしい。 

 次にロックランドには肥沃な大地が極端に少ない。詳しいことはバランも話さないのでわからないが、どうやらその影響で食料事情にも問題が生じているらしい。

 

 西部においてはほとんど植物が見られず、北部は魔宮が発生したことで危険性が高くそもそも選択肢に含まれない。東部の川沿いには緑が見られるが、渓谷に阻まれており滝のふもとにわずかな平地が存在するが現在は手付かずである。

 唯一、南部には肥沃な土を有する地域が多く見られるが農耕の形跡はまったく見られない。住民たちはどうやって暮らしているのだろうか。


 ここからはオレの推測だ。

 領内でわずかに生活する住民の家や服装を見る限り、生活レベルは極めて低いものだろう。スローライフなどと聞こえの良いものとは一線を画す。バランの話ではよその大きな街にはさまざまな小売店が軒を連ね、定期的に大きな市が開かれる場所もあるらしい。


 総合的に考えるとロックランドはもしかすると『魔界の住みたくない地域ワースト5』なんかに何年も連続で堂々のランクインを果たしているような辺境の地なのではないのだろうか。




 『なぜダン様がそれをご存じなので!?』オレが冗談半分で尋ねるとバランが右目を大きく見開いて言った。ここまで驚くバランを見たのは初めてだ。

 どうやらロックランドは本当に人気のない領地なようだ。


 これはもう少し詳しい内容を調べてみる必要がありそうだ。

 そもそもオレはこの屋敷についても知らないことが多すぎる。

 何人が働きいくらの給金をもらっているのか。

 領主でありながらオレは何も知らない。

 早速、バランと二人きりで書斎で話すことにした。


 「ここでお仕えする者は、私の他に、メイドが二名、料理人が一名、私設兵士が十名、使用人が一名、全員で十五名になります」


 ここまではオレの想像の範囲に合致していた。

 むしろこれだけ大きな屋敷内の仕事を、メイド二名と使用人だけで管理していたことに驚いた。料理人にしてもオレを入れて十六名ぶんの食事の準備と後片付けをするのは重労働だろう。


 「賃金は月払いでそれぞれ、私と兵長が100ゲルド、それ以外の者が80ゲルドをちょうだいしております」


 魔界の通過であるゲルドを日本円に換算するのは難しが、バランの話ではおそらく『1ゲルド=約150~200円』程度になるのではないかとのことだった。ということは一番もらっているバランの給金でも多く見積もっても2万円程度ということになる。もしかして魔界は恐ろしいほどのデフレ状態なのだろうか。


 ところで彼らに支払われる給金の源となるこの家の収入源は何なのだろうか。

 ここでバランが衝撃の事実を口にする。


 「先代からダン様が二十歳の誕生日を迎えられるまでの資金を与えていただいております。現在はその中から皆の給金も支払っております」

 「それって十年以上前の話ですよね。今はどれくらい残ってるんですか?」

 「現在の残高は8260ゲルドだったと記憶しております」 


 あれ。思ったよりずいぶん少ないな。


 「給金以外の毎月の食費やその他の経費はだいたいどのくらい掛かりますか?」

 「細かな部分は計算してみなければいけませんが、およそ2千ゲルドほどかと」


 給金が毎月1240ゲルド。

 食費その他の経費が約2千ゲルド。

 毎月の支出の合計が3240ゲルド。


 現在の残高は8260ゲルド。

 これってマジでヤバイんじゃないのか?


 領地というくらいだから税収のようなものがあるのかも知れないが、単純に考えると今の残高では三ケ月もたない。ロックランドは極端に領民の少ない不人気領土だ。あの生活レベルでは高額納税など望めるはずもない。


 「その父が残した資金の他に、何か収入源のようなものはあるんでしょうか?」

 「魔宮から現れる魔物が残す素材に売れるものがございます」

 「それはいくらくらいになりますか?」

 「そうでございますね、その月によって違いますが約100ゲルド程度かと」


 バラン一人の月給をまかなう程度か。


 「他に税収とかはないんですか?」

 「ロックランドは先々代のころより領民から税を徴収したことはございません」


 このままいけばロックランドは三ヶ月もたずに破たんする。

 父や祖父の代ではいったいどのような資金繰りをしていたのだろうか。

 

 オレは急いで隠し部屋の扉を開けて小箱の中に入った金貨と銀貨の入った革袋を取り出し机の上に置いた。


 「この中に金貨と銀貨が入っていますよね。全部でいくらになりますか?」

 「それはダン様個人のお金でございますが?」

 「とりあえずいくらになるか教えてください」


 オレとバランは革袋の中の金貨と銀貨を机の上に並べた。

 魔界の硬貨の種類は銅貨、青銅貨、銀貨、金貨、白金貨の五種類。

 

 銅貨一枚が1ゲルド。

 青銅貨一枚が10ゲルド。

 銀貨一枚が100ゲルド。

 金貨一枚が1000ゲルド。

 白金貨一枚が1万ゲルド。

 

 ちなみに白金貨は一般の店では滅多に流通することがなく、バランですら数えるほどの回数しか目にしたことがないらしい。

 

 革袋に入っていたのは金貨が十枚。銀貨が三十三枚。合計13300ゲルド。

 とりあえずこれだけで四ヶ月ぶんに少し足りない程度だ。

 もともとの資金と合わせれば六か月は何とかなる。

 いや、その計算ではオレの食費やその他の経費が含まれていないか。


 このままではロックランドは近い将来に破たんする。肥沃な土壌と領民不足に加えて、深刻な経済難を抱えているのは明らかだ。この問題を解決するためには実際に人気のある街を視察して、物の相場やロックランドとの違いを早急に把握する必要がある。


 思いついたが吉日。

 オレはバランにワイバーンの用意を頼んで、自らは急いで殻魔装を身につけた。


 ロックランドの周辺領地にはいくつかの街があるが、その中でもとりわけ大きい街は二つ。一つは北に位置する巨大領地バルバロスの首都バルバロス、もう一つは南西に位置する中立都市フリーポイントだ。


 とりあえずオレたちは南西の中立都市フリーポイントへと向かった。

 

 この中立都市というのは厳密には皇都に従属する。皇都からかなり距離があるため僅かばかりの税金と称する上納金を支払うことで、人や物の出入りにも規制がなく自由な商売が可能となっている。そればかりか皇都の《《お墨付き》》を笠に着ることで、住民たちは近隣の他領土からの妨害や侵略の心配なく安心して暮らすことができている。

 

 大勢の人とたくさんの物が集まれば自然と商売も活性化する。

 フリーポイントは近隣都市の中でも随一の商業都市であり、ここで手に入らない物は皇都に行かなくては手に入らないと言われるほどの大きな都市であった。


 ロックランド領の南部に位置する巨木の森を左手に見て四十分ほど進んだ場所で一度着陸して休憩し、再び飛びたって三十分ほど進むとフリーポイントの街並みが見えてきた。この距離からでも明らかに街の規模が大きいのがわかる。二階建て以上の建物もかなり見られ、ロックランドとの差が歴然としているのがわかる。

 

 ポルチに指示を出しワイバーンを街の入り口付近に着陸させた。

 

読んでいただきありがとうございます。

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