白銀の怪物
【お知らせ】
いつも読んでいただいてる皆さま本当にありがとうございます。
主人公や基本設定を一緒にしたちょっと違う内容の話を書いています。
マカイモノガタリ!! ~遺産相続したら魔界で爵位まで継承しちゃった件~
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身を低くして素早く戻ってきたエレがオレたちに向けて親指を立てた。
痺れ罠の準備が整った合図だ。
「エレ、アンカーはあるか?」
「一本ある」
「よし、オレが引きつける!」
ジルコはそう言い残すと痺れ罠の後方へ飛び出し斑模様を誘い込むように火球を放った。
すぐ目の前を横切る火球に怒りを露わにした斑模様が、四枚の斬翅を鳴らしながらジルコを目掛けて急降下する。そのあまりの迫力にクロスボウを構えたオレは何もできずにただただその光景を見つめる。
ジルコの放つ火球をよけながら斑模様が接近する。そのスピードは成体の比ではない。
その勢いと迫力は思わず目を瞑りそうになるほどだが、ジルコはしっかりと両手剣を握りしめて迫り来る斑模様を見据える。カァァァッ! ジルコを切り刻もうと突進した斑模様の目の前が突然、強烈な光に包まれ次の瞬間に全身が強烈に硬直する。ジルコの目前でエレの痺れ罠が斑模様を捕えた。
「エレ、アンカーを!」
「わかってる!」
叫ぶと同時にジルコがその場から避難すると、先回りして準備を進めていたエレが通常の物よりかなり大きく鋭い矢を放った。通称アンカーと呼ばれる、獲物を固定するための特殊な仕掛けのある道具だ。まずアンカーが獲物に突き刺さると同時に抜けないように返しが突き出す。その後に末端部分が破裂すると網状のワイヤーが飛び出し獲物を地面に固定させる。
「ペイン、大火球だ!」
ジルコがペインに指示を出す。止まった的が相手ならオレだって。すぐにクロスボウの矢を二発放ったがそのうちの一発は外し、もう一発は斑模様の硬い甲羅に弾かれた。その間にジルコも火球を放つ。そして、オレが三発目を狙っているとペインの放った燃え盛る大火球が斑模様を直撃した。『グギィィイイイ!』これには斑模様もたまらず苦痛な叫び声を上げる。
「ペイン、もう一発!」
ジルコが言い終わるとすぐに上空から禍々しい翅音が迫るのに気付く。
もう一匹の斑模様がこちらに気付いて向かってきた。恐らくエントマには仲間を助けたり庇うという感覚はないだろう。同種と襲う者がいる。それは自分にとっても敵である。その敵を倒すか、その敵から逃げるか。選択肢は二つに一つ。オレたちを見付けたもう一匹の斑模様は、脅威となるオレたちを速やかに殲滅するために向かってきた。
「ジルコ!?」
「大丈夫だ。ダン、オレが引きつけているうちにそいつに止めを!」
そう叫ぶとジルコはもの凄い勢いで飛び込んで来る斑模様の攻撃を辛うじてかわしながら、少しずつ罠に掛かったもう一匹の斑模様から距離を取っていく。ジルコが引きつけてくれているうちに早く止めを刺さなければ。オレは罠に掛かった斑模様に狙いを定め三発目の矢を撃ち込んだ。今度は上手く甲羅の継ぎ目に突き刺さった。そこへペインの大火球が轟音とともに命中する。
『キュゥゥゥ……』斑模様が力なく悲鳴を上げる。
まずい。このままではオレが止めを刺す前に死んでしまう。
即座に放った四発目の矢は斑模様の胴体の硬い甲羅を突き破ぶった。衝撃で緑の液体が飛び散る。斑模様はしばらく脚をジタバタさせたがやがてそのまま動かなくなった。『よっしゃ! ダンが一匹、仕留めたよ!』エレが叫ぶ。
二匹の斑模様のうちの一匹を討伐した。
その声は火炎壁の向こうで戦う仲間たちの耳にも届いていた。成す術がないかと思われた二匹の魔物の一匹を、救援に駆け付けたロックランド伯爵が討伐した。血みどろの兵士たちから歓声が沸き上がった。契約の腕輪に『265』の文字が浮かび上がる。格段に高い数値だ。これは期待できる。
もう一匹の斑模様を引きつけるジルコの技術は見事なものだった。
昨日見せてもらった魔法剣士の戦い方は基礎中の基礎であったのだろう。卓越した技術と火魔法と風系魔法の効果が付与された両手剣を駆使して斑模様を自分に引きつけながらも、相手の攻撃をギリギリのところでかわしながら何度か斬りつけたが硬い甲羅にはほとんど傷跡は残っていない。このまま逃げ回っていてもいつかは体力が尽きる。何か策を練らなければ。
ロブストたちは何とか巣から新たに這い出すエントマたちを仕留めてくれている。
あとはもう一匹の斑模様を何とかすれば。どうにかして動きを止めることができれば。
『ひゃぁぁああ────』その時、端の方で戦う兵士から声にならない悲鳴が上がる。
兵士が見つめるアルベラの林の方角に目を向けたロブストたちは思わず自分の目を疑った。
全身が白銀色で頭部から胸元にかけて闇を思わせる漆黒が広がる。斑模様のエントマより更に大きなそれはゆうに4メートルを超え、魔物と呼ぶよりは怪物という表現の方がしっくりくる。怪物を目の前にした者の行動は二つだ。恐れ慌てふためく者。武器を取り勇猛果敢に立ち向かう者。
「あ、あれは!?」
「アステルランド伯爵、どうぞお下がりください。ここは我々が!」
「我々も力を貸すぞ!」
ロブストとアジリスがバルバス殿の前に出ると、ザッパとセダムが武器を構えて隣に並ぶ。
皆の脳裏に同じ疑問が浮かぶ。いったいどこにあんな怪物が隠れていたのだ。先に現れた斑模様の変異体ともまったく違う。もちろん通常の成体が可愛らしく見えるほどの禍々しさを纏っている。明らかに危険な存在。
怪物は前脚についた鋭い鎌でアルベラの林を切り開きながら大きな牙を鳴らしゆっくりと近付く。
特徴的な長い脚と前脚についた鎌。大きな顎と牙。あれは紛れもなくエントマクイーンの特徴だ。だが、大きさも見た目も通常のクイーンではない。クイーンの変異体か。薄々気付いてはいるがそれを口に出すものはいない。それは口に出した瞬間に絶望に飲み込まれそうなほど禍々しい姿をしていた。
『出し惜しみしてどうにかなる相手じゃないぞ!』ロブストはまるで自分に言い聞かせるように声を荒げると、即座に魔法を唱えた。
『防御力・小上昇』
『斬れ味開放』
ロブストの足元に青白い魔法陣が浮かび上がる。
それに釣られるようにザッパも魔法を唱えた。
『剛力開放』
巨大な戦鎚を構えるザッパの足元に青白い魔法陣が浮かび上がる。
セダムが袋から何かを取り出してアルベラの林のへと振りまいた。
『超栽植展開』
セダムの足元に青白い魔法陣が浮かび上がるのと同時に、アルベラの林の中に黒色の棘が急激にはびこり怪物の行く手を阻む。
「黒根野棘を撒き散らした。強靭でしなやかな天然のバリケードだ。少しは時間稼ぎになるといいが」
しかし、この後、オレたちは変異体クイーンの本当の恐ろしさを知る事になるのだった。
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